第33話

 ケイトをボコボコ—稽古をした翌日、疲れが残っているのか昨日より足取りが重くなったケイトと、いつも通り歩幅の小さい俺の旅は続く。

 昨日狩った魔物の素材を剥ぎ取り、肉は夕食にして美味しくいただいた。

 兎角の毛皮は大した値段にはならないが、元が小さい分嵩張らないので持っていく。

 角の方は皮とは違い磨いて形状を整えれば武器にもなるし、砕いて粉末にすると薬の材料にもなるのでそこそこ売れる。

 まぁ薬の材料と言っても代替品として使う場合がほとんどなので、街での食事に一品追加できる程度の足しだ。

 そこは初日なのだから仕方ない、塵も積もればというやつだ。


「う〜ん、魔物いないねぇ〜」

「そう頻繁に出てこられたら安心して暮らせないだろ」

「私達にとってはお金が自分から手元にやってくるのと同然だよ。ケイト君だって、せっかく街に行くんだから美味しい物を食べたいでしょ?」

「そりゃそうだが、それならハンター登録して依頼をこなせばいいだろ?」

「わかってないなぁ〜。ケイト君、私達は世間からしたら新米だよね?」

「ああ、これから登録しようって訳だしな」

「そんな新米が受けられる依頼なんてたかが知れてるよ。しかもライザックの話だと未成年のハンターは実力を認められても最低等級の10級からスタートらしいじゃん」


 ハンターは実力と功績を踏まえて等級がつけられる。

 等級は全部で11種類あり、1級だけ準1級が存在するが10〜1級まである。

 未成年でハンターになる者は適性試験をクリアしたとしても10級からのスタートになる。

 これはハンターギルドで定められたルールであるらし。

 そういった事情で俺もケイトも10級から始めることになる。

 ハンターは等級によって受けられる以来が限られるため、早急に等級を上げなければ安い依頼料でやりくりする貧乏生活を送らなければならなくなる。

 安月給なんて前世の会社員時代だけで十分だ。

 あまり褒められた行為ではないが高い等級の依頼を盗み見て、依頼の魔物を偶然を装って狩ってくれば実力は証明できるだろう。

 よくある異世界転生物のテンプレでは誰かしらに難癖をつけられるなんてパターンもあるが、実際にそうなった場合は1人くらい見せしめにすればいいかな?なんて思ってたり思ってなかったり。

 そこら辺は状況次第だ。

 それでも当面は10級でのハンター生活を余儀なくされるので、欲を言えば等級を上げるまでの貯金、最低でも食費には困らない程度に稼ぎたいところ。


「そういう訳だから、魔物さんには遠慮せずどんどん出てきてもらいたいのですよ」

「確かに等級はさっさと上げてしまいたいな」


 そんな思いとは裏腹に、今日1日は雑談しながら歩くだけで魔物は出てきてくれなかった。






 斯くして順調に進んだ俺達の旅は思わぬ事態に出くわす.....こともなく。

 懐事情を改善してくれるような高額取引される魔物が現れる....こともなく。

 なんの障害もトラブルもない順調な旅路を歩み、本当に何事もなく街に到着してしまった。


「結局稼ぎは兎角の素材だけか.....はぁ〜」

「せっかく街に着いたのにそんな暗い顔すんなよ」

「それもそうだね〜、過ぎたことを言っても仕方ない。さっさとハンター登録を済ませて、さっさと等級あげますか」


 俺達はスダラーダの門で入場料を払い、あらかじめ村に行商しに来る商人に聞いていたほどほどの宿を目指して進む。

 街の中はソーンスタットとは人口密度が違い、各々が足早に通り過ぎていく。

 その光景が物珍しいのか、ケイトがお上りさん丸出しでキョロキョロと視線を彷徨わせている。

 まぁ、ソーンスタットとスダラーダでは大分印象が違うだろう。

 村ではすれ違い人みんなが知り合いだったが、街では逆にすれ違う人全員知らない人だ。

 ケイトからしたら初めての経験なのだから仕方ない。

 俺は前世で親しみのある光景なので、まぁこんなもんか、といった感想しか出てこない。

 それよりも気になるのは建物や街並みだろう。

 どの建物も木材が基本だが、一部コンクリート擬きというか粘土質な建材が使われている。

 どれもこれも前世基準では耐震強度が低そうな見た目だ。

 この世界なのか地域なのかは定かでないが、転生してからというもの地震が起きたことがない。

 建築様式はその地の環境によって変わるものだ、地面が揺れないのであればそれを考慮して建築する必要もない。

 中世ヨーロッパ辺りのよくあるファンタジー建築を期待していたのだが、ここが田舎寄りの街だからか、はたまたこの世界の文明レベルが低いのか、木材を粘土で補強しましたって感じの粗末な建物ばかりが目立つ。

 そんな見慣れない街並みをキョロキョロ見渡すものだから、俺もケイト同様お上りさんのように見られていたことだろう。


「うん?もしかして、ユウとケイトか?」

「おっ?この声はサルジュ?」


 宿を探しなら進んでいると突如名前を呼ばれる。

 その声は聞き覚えのあるもので、村の人間以外で最も親しいと言っていい相手、サルジィが声のした方に立っていた。

 サルジュは村に少量ながらお酒を売ってくれる商人で、俺が毎月酒を買おうとしては断念させられる相手だ。

 ある意味ライザックより手強い。

 俺達を見つけたサルジュはこちらに近づいてくると軽くてを翳す。


「よう、2人がここにいるってことは、無事旅立ちの許可は得られたってことか?」

「その通り、これで村の外でもお酒の交渉ができるようになったよ。これから覚悟するんだなサルジュ!」

「お前がいうと冗談に聞こえないぞ」

「言っておくがユウが成人するまでお酒を売るつもりはないからな?おじさん、もうここまできたら意地でも売ってやらないからな?」

「ふふふ、そちらがその気ならこちらも引くに引けないな!今日こそはサルジュのお酒を売って貰おうじゃないか!」

「それよりサルジュさん、俺達ノウサギ亭って名前の宿探してるんだけど、どこにあるか知らないか?」


 もはや恒例となった俺とサルジュのやりとりに付き合うことなく、ケイトが本来の目的をサルジュに尋ねる。


「ああ、その宿ならそこの道曲がってすぐの所にあるぞ」

「案外近いとこまで来てたんだね」

「宿を探してるってことはまだハンター登録は済んでないのか?」

「うん、宿を確保してからハンターギルドに行こうと思って」

「そうか、それならギルドまで道案内するぞ?どうせ今日は暇してるからな」

「ありがとう、話に聞いておおよその場所はわかってるんだけど、やっぱり道に詳しい人がいてくれたら助かるからね」


 サルジュの提案にありがたく乗っかる。

 初めての街で人聞きにしか場所を把握しておらず、且つこの規模の街だと地図なんてものは置いていないようなので、ハンターギルドを探しながら進まなければならないところだった。

 できれば今日はギルドで試験を受けて登録を済まし、日帰りできる依頼を受けて宿で休みたいと思っているのだ。

 道案内とこの街で暮らしているサルジュが話を通してくれれば幾分かはスムーズに進むだろう。

 サルジュ協力のもと手早く宿を確保した俺達は、その足でギルドまで向かった。

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