第32話
ソーンスタット村を出た俺達は、商人が何度も行き来してできた道を目印にスダラーダへ向かう。
ここからスダラーダまでは一本道なので迷うことはないだろう。
精々気をつけるのは魔物くらい、その魔物ですらこの周辺では大して強いものはいない。
少なくともソーンスタットの自警団基準だが。
まぁ、商人が頻繁に行き来しているのだからそれなりに安全ではあるだろう、でなければ碌に行商もできない。
徒歩での移動となると日中を移動に費やして約3日と言ったところで、食料はそれを見越して5日分、例え俺の歩幅が短かろうと余裕な量を確保してある。
街に着いたら宿を確保する予定なので、お酒の購入資金に貯めていたお金を持ってきている。
ちなみに鉄貨以下の通貨は使える場所が限られるので置いてきた。
使えない物を持って行っても嵩張るだけだからね。
宿の確保をしたらスダラーダにあるハンターギルドを訪問し、そこでハンター登録をするのだ。
ハンターは未成年でもなれるのだが、その場合試験官による適性試験なるものがあるらしい。
というのも、ハンターは依頼内容によっては野外で活動しなくてはならず、そうした依頼を受けるなら魔物や盗賊といった脅威から身を守る術を持っておかなければならない。
なんの力も持たない幼い命を無闇に散らす事態を防ぐため、こうした未成年者への適性試験が設けられているとライザックが言っていた。
試験の内容は教えてくれなかったが「お前らなら何の問題もねぇよ」と言われたのでとりあえずその言葉を信じよう。
「晴れててよかったね」
「そうだな、旅立ちにはうってつけの天気だ」
「あとは魔物の1匹でも出てくれればいいんだけど」
「いや、普通は出てこない方がいいんだぞ?」
「わかってるよ、でも街に着いたら宿代に食費にその他もろもろ、何かと入り用になるでしょ?」
「まぁ、確かにな」
「だから少しでもお金の足しにするためにも道中の魔物は狩って行きたい所存です」
「ユウってたまに頭いいよな、先のこととかもしっかり考えてて」
「おや?今聞き捨てならないことを言ったな?訂正してもらおうか、私はいつも頭いい、だよ?」
「フンッ」
「鼻で笑われた!?」
そんな会話をしながら進むこと半日、もうそろそろ野営の場所を決めないと、と考えていると魔力の波動を感じ取った。
どうやらこの魔力を感じ取る感覚は生まれ持った才能に左右されるらしく、俺は当然のように身体強化で魔力を活性化させる動きがあると感じ取れる。
だが逆に、この体でも活性化させていない魔力は感じ取れないため、高性能なあれこれでもそこが限界のようだ。
ちなみにライザックは剣の間合いであれば感じ取れ、ケイトは意外なことに5メートル先まで魔力の波動を感じ取れる。
さすがに俺より範囲は短く障害物によって狭まったりするが、それでも戦士であればこの範囲は破格の物となる。
なにせ魔物や一流の戦士は何か行動を起こす時に身体強化を使う。
相手の出始めが分かるため、出鼻を挫く動きや、不意をついた動きに対応できるという利点がある。
魔物を探知するのにも使えるので戦士だけでなくハンターとしても破格な才能なのだ。
「ケイト君、出番です!」
「急に何言ってんだ?」
「2人で話したでしょ、戦闘は基本ケイト君が担当、1人じゃ厳しそうなら私も加勢するって」
「ッ!?敵がいるのか!」
「もうそろそろケイト君にもわかるはずだよ」
これも旅に出る前に話し合って決めたことだ。
俺はこのチートスペックな体のおかげで一流の中でも屈指の実力だと自負する戦闘力を有する。
おまけに
それに対しケイトは身体強化こそ使えるが、技術に関してはまだまだ未熟なところがある。
そのため戦闘は基本ケイトに任せて経験を積ませると同時に、俺はケイトの改善点を指摘し成長を促す。
どうにもケイトは俺に対抗意識でもあるのか強くなることに貪欲で「必ずお前より強くなってやるよ」と挑戦とも取れる言葉を言われたことがある。
それでも俺に師事するのはその方が強くなれると思ってのことだろう。
ケイトが意識を集中して魔力の波動を探る。
ちょうどその頃になって魔物がケイトの探知範囲に入り、それを感じ取った瞬間後ろを振り向き剣を構える。
そこには
サイズは前世のご家庭で飼育されているのと同じ、ただしこちらの兎は優れた脚力による猛突進をしてくる。
その速度はプロ野球選手の剛腕ピッチャー並の速度を誇り、額にある角は人体なんぞ簡単に貫ける強度を持つ凶悪な魔物だ。
それが2羽ケイトに向かって突進の構えを見せていた。
さすがにこの距離から突っ込んでも当たらないことは兎達も理解してるのか、2羽は右に左に細かく動きながら距離を詰めてくる。
ケイトは兎の動きをよく観察して待ち受ける構えだ。
そんなケイトを気にすることなく接近した兎は、射程範囲に入ったのか後ろ足に力を加えると2羽同時に突進し、ケイトと後ろで眺めていた俺に対しても攻撃を仕掛けてきた。
攻撃の軌道を素早く読み取ったケイトは踏み込む足で自身の攻撃を躱わすと同時に、俺に向けて突進してきた兎を斬り伏せ、身を翻してもう1羽の元へ駆ける。
身体強化を使ったケイトの素早い接近は兎が振り向くより早く到達し、そのまま背後から斬り伏せ呆気なく戦闘が終了する。
「お疲れ様、どうだった初めて1人で戦った感想は?」
「そうだな、少し体の力が入りすぎてる気がする」
「うんうん、わかってるならよし。村での魔物狩りとは違って索敵、警戒、相手の動きの観察に対応、それから伏兵の考慮を全て1人でやらないといけない。だけど最初っから全部はできないから一つ一つ身につけていけばいい」
「ああ、そうするよ」
「ただ、一つだけ指摘するよ」
「なにか悪かったか?」
「悪いって程でもない。ただ、仲間を守ろうと動いたのは評価するけど、自分を狙ってきた敵から目を離すのはよくないね」
「でも、相手は兎角だろ?突進さえ避けてしまえば—」
「普通はそうかもしれないけど、もしあれが特殊個体だったら?目を離した瞬間致命傷を負うかもしれないよ」
「それは....考えすぎじゃないか?」
特殊個体、それは魔物の中に稀に生まれる存在で、本来持ち得ない能力を有していることがある。
兎角の場合、過去の例で空中を蹴って軌道を変えてくる兎角がいたとか。
確かにケイトの言う通り特殊個体なんてものはそうそう現れない。
それこそ特殊個体なんて見ることなくハンター人生を終えることの方が多いくらいだ。
だが本質はそこではない、俺が言いたいのは今のうちから未知に対する対応力を身につけろと言うことだ。
不足の事態にあった時、情報にない何かが起きた時に対処できるだけのアドリブ力とでも言うのか、そういった物を身につけてもらいたいのだ。
なにせ俺達は未知なる秘境や、この世界にしか存在しない未知の出来事を探索し、大いに楽しむためにハンターになるのだから。
今はまだ村の近くで比較的安全且つ、出てくる魔物の情報は周辺住民なら周知されていることだ。
だが、この先旅をしていく上で不確かな情報でも進まなければならない状況がくるだろう。
その時に対処する姿勢が身についていれば生存率も上がるというもの。
そのことをケイトに話すと、これまた意外とでも言いたげに驚きを露わにした表情をされた。
「お前って本当に頭いいんだな」
「よし、ケイト君。剣を持て、今から稽古の時間だ」
「ちょっ!?待て待て!悪かった、俺が悪かったからその剣をしまってくれ!」
心外なことを言われたが、言いたいことはわかってくれたケイトに次から意識すると約束させた。
それはそれとして、吐いた唾は戻らないということをその体に教えてやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます