第29話

 ここ数年、俺とケイトの実力はかなり向上した。

 その最たる理由は魔力による身体強化を習得したことだ。

 生きる者なら誰もがその内に秘める魔力は、普段の生活を行うだけなら使うことはない。

 それどころか、そこらの二流三流の戦士でも使える者はいないらしく、一流と二流を分ける指標がまさに魔力による身体強化の有無らしい。

 そして当然のようにできてしまえるライザックはやはり一流の戦士だった。

 本来なら身体強化は修練を重ねていくうちに才能があれば自然と覚えるそうなのだが、俺の場合初めて参加した魔物狩りで魔物と戦うライザックを見てその技法を知った。

 魔物から微弱ながら波動を感じ取り、素早く動く時にその波動をより強く感じた。

 この波動はなんなのだろうか?と首を傾げていると、ライザックからも似た波動を感じたのだ。

 そしてその波動を感じた瞬間、ライザックは今まで見たこともないスピードとパワーを発揮し、硬い甲殻で覆われた虫型の魔物、甲硬蟲こうこうちゅうを力技でねじ伏せた。

 戦闘後にライザックに尋ねてようやく俺の感じた波動が魔力であることを知り、ライザックにどうしたら習得できるか聞いたところ「何言ってんだ?お前も使ってるだろ?」とわけのわからない返答をされた。

 魔力なんて使った覚えありませんけど?などと思いながらも、先程魔力を感じ取った時の感覚を頼りに自分に意識を向けてみると....

 はい、使ってました。

 無意識レベルで使っていましたとも。

 自分のことでありながら無意識に一流の戦士が使う技法を使っていたとは、久々にこのチートスペックの体に驚かされた。

 もうそろそろ打ち止めかと思っていた高性能なあれこれはまだ隠し球を持っていたらしい。

 今思えば初めて三足刀法を使った自警団との模擬戦で、地面に亀裂を入れてしまったのはそれが原因だったのだろう。

 三足刀法はスピードで相手を翻弄することをコンセプトにした戦闘スタイルで、スピードを出すための踏み込みをする際に無意識に魔力を集中させてしまったのだろう。

 その結果地面に亀裂ができるほどの力強い踏み込みをしてしまったわけだ。

 そして、そんな技法があると知れば色々試したくなると言うもの、だって男の子なんだもん。

 身体強化は基本的に体内で循環させることで全体的なスペックの底上げが可能で、循環を維持したまま一部位に魔力を集中させることでさらにその能力を向上させることができる。

 腕に集中させれば腕力を強化でき、足に集中させれば脚力を強化できる。

 そして身体強化で強化できるのは力だけでなく、肉体の強度も底上げしてくれる。

 だが、いくら頑丈になれるからと言って力を底上げしすぎればそれだけ体に負担が掛かる。

 それこそ一部位への集中的な強化は容易に肉体強度を超えた負荷をかけてくる。

 俺のこのチートスペックな肉体なら多少の無茶をしても持つが、普通の人がやると下手したら過負荷に耐えられず骨を砕き、筋肉を引きちぎり大切な神経が切れて2度と動かせなくなる、なんてことにもなりかねない。

 1人で身体強化の運用を試していた際に骨がメキメキ鳴り始めたのにはさすがに焦った。

 一応権能で理を読み取り、異常がないことは確認済みなので問題ない。

 侵食世界は理を書き換えるという能力の都合上、理を読み解くことができる。

 まぁそれに気づいたのがジーナのために積み木やら遊び道具などを手作りしようと考え「素材にも拘って良い物をプレゼントしよう!」などと息巻いて商人の品揃えを眺めている時に気づいたのだから、カナンが呆れるのもわかる気がする。

 俺も自分自身に呆れた。

 権能の新しい発見はこんなもので、相変わらず村民は見えない力場だと思っている。

 さて、少々脱線したが魔力による身体強化を習得して粗方扱い方を知った俺は、きっと誰もが共感してくれるであろうことを思いつく。

 魔力の斬撃とか飛ばしてみたくね?

 Tから始まるRPGや、人間サイズの刀を振り回す死神さんのアニメを見た者なら誰もがやってみたいと思うだろう技だ。

 さすがにこの歳になって技名を叫ぶことはしないが、それでもカッコつけたくなる気持ちは元厨二病患者なら理解してくれることだろう。

 そしてカッコつけたところを知り合いに見られて恥ずかしい思いをすることも、同士諸君なら共感しでしてくれるだろう。

 ケイトに、コイツ何やってんだ?って眼差しを向けられた当時の俺ならば、権能がなくとも顔から火を出せた自信がある。

 とりあえずその日の稽古はケイトの打たれ強さ向上のため、ひたすら一方的に打ち込みを行った。

 決して記憶が無くなるまで殴るとかそういうのではない。

 さすがにボロボロになったケイトの姿を見て少々やり過ぎたなと反省したので、稽古終了後、いつぞやのお返しに膝枕をしてやった。

 膝の上に乗る重み、身じろぎするたびに擦れるケイトの髪の感触、そして運動後の高めな体温に目の前から感じる息遣いが......なんていうかその....膝枕ってしてる側も結構恥ずかしいんですね。

 違う理由で赤くなった顔を見られないよう、俺は終始空を眺めていた。

 あの時のケイトはどんな表情をしていたのだろうか....




 多少の紆余曲折はあったものの無事斬撃を飛ばすことに成功し、他にも派生技を習得できた。

 魔力斬撃と呼ばれる斬撃を飛ばす技術は、歴史上の偉業を成し遂げた戦士や英雄が使っていた技で有名らしく、この技を使える戦士は現在では片手で数える程度しかいないらしい。

 それほど高度な技だとは知らず、ライザックや自警団のみんなに自慢したら物凄い剣幕で習得方を聞かれた。

 屈強な男達に囲まれる少女の様は、側から見たらさぞかし犯罪臭漂う光景だったことだろう。

 正直ちょっと怖かったです。

 ライザック以外は身体強化が使えないのでとりあえずライザックに教え、その他は身体強化を習得してからライザックに聞くようにしてもらった。

 俺はケイトの相手で忙しいのだ。

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