第28話
「たっだいま〜!」
「ユーねぇ!?おっかえり〜!」
「キャー!今日のジーナも可愛いね〜!」
魔物狩りを終え村に到着すると全力疾走で我が家へと帰還する。
元気よく帰宅を知らせると、真似するようにジーナが元気にお出迎えしてくれる。
嗚呼、楽園はここにあったのか......
ジーナはここ最近誰かの真似をしたがる傾向にある。
そして外見だけなら近しい俺の真似をよくするので、ジーナが立派な淑女に育つようあれこれ仕込んで、コホン....お手本になるように心がけている。
「ユウったら、相変わらずジーナにメロメロね。おかえりなさい」
「ただいま、カナン。こんなに可愛い子が目の前にいたら誰だってメロメロになるよ、ねぇー、ジーナ?」
「ねぇー?」
ジーナを抱き上げそう問いかけると、首を傾げながら真似をする。
「はいはい。そうだ、ユウがいない間ジーナが寂しそうにしてたから構ってあげて?」
「言われずとも!」
「ともー!」
カナンはそう言いジーナを俺に託してくれた。
少々俺の溺愛具合に呆れてる節はあるが、甲斐甲斐しく世話をしていることと、俺の真似をしてジーナが色々覚えていくので大目に見てもらえている。
「それじゃジーナ、今日はこの前の続きをしようか」
「うん!」
ジーナにお手製の積み木を使って簡単な足し引きを教えていると、畑仕事から帰ってきたジルが顔を見せる。
「おや?帰ってたんだねユウ、おかえり。ジーナの相手をしてくれてるのかい?」
「ただいま、ジル。うん、カナンに頼まれたからね。ほらジーナ、お父さんが帰ってきたよ?」
「ヤー!ユーねぇと遊ぶ!」
「ジ、ジーナ?パパだよ?おかえりって言って欲しいなぁ....」
「ユーねぇ、あれおしえて!」
ジルが嫌われているわけではないのだろうが、遊びに夢中なジーナはジルなど眼中に無い様子で積み木遊びを催促してくる。
愛娘に見向きもされなかったジルはそのまま膝から崩れ落ち、なんとも情けない姿を晒す。
仕方ない、ここは俺がフォローしておくか。
「ジーナ、家族が帰ってきた時はおかえりって言うんだよ。私はジーナにおかえりって言ってもらえてすごく嬉しかった、ジーナもお父さんとお母さんにおかえりって言ってもらえたら嬉しいよね?」
「うん」
「ジーナはお父さんにおかえり言ってあげないの?お父さん悲しそうだよ?」
「パパ、かなしいの?」
「そうだね、悲しいね」
俺の意図を察してジルが大袈裟に悲しい素振りを見せると、ジーンは積み木を置いてジルの下へ向かう。
そして膝を付いて四つん這いとなっているジルの頭をペチペチしながら撫でる。
「おかえりパパ」
「ただいま、ジーナ」
「もうかなしくない?」
「うん、ジーナがおかえりしてくれたおかげでパパは元気になったよ。ほら!」
「わぁ〜!?たか〜い!」
元気を取り戻したジルはジーナを抱え上げると高く掲げて元気アピールをする。
突然持ち上げられて驚いたジーナだったが、普段目にしない視点から見る光景が楽しいのか、キャッキャ言いながら喜んでいた。
しばらく親子のコミュニケーションの様子を眺めていると、夕食の時間になりカナンが呼びにきたことで遊びの時間は終了となった。
「ありがと、ユウ」
「なんのこと?」
カナンに連れ去られたジーナを見送り、俺も跡を追おうとするとジルがお礼を言ってくる。
「ジーナにいろいろ教えてくれて」
「可愛いジーナには立派に育ってもらいたいからね、そのためなら労力は惜しまないよ」
「そっか、ユウは将来いいお母さんになるだろうね」
「私は結婚するつもりなんてないって言ってるよね?」
「それはどうだろう?ダーズリーも昔はそんなこと言ってたけど、今では立派な仲良し夫婦になってるよ。ユウも案外そうなるんじゃない?」
「はいはい、そうですねー。そんなことより夕食に急ごう。冷めたらせっかくの料理が勿体無い」
「そうだね」
突然何を言い出すかと思えば....
周りの同年代の子達はちらほらと婚約者を抱え始めてしており、それに託けて何かとその方向に話を持って行きたがる。
結婚の意思はないと明言しているはずなのだがな。
後はまぁ、相手が決まって世帯を持てば村を出てハンターになるという考えも改めると思っているのだろう。
俺は家族や村のみんなに村を出てハンターになることをすでに公表している。
最初は外堀を埋めるべくライザックに話した。
多少は説得が必要かなと思ったが、思いの外あっさり承諾された。
というのもライザックは家族の反対を押し切って村を飛び出し、夢を抱えてハンターとなった過去があり、ハンターになりたい俺の立場に共感が持てると言ってくれた。
そして話の流れで知ったのだが、ガリルも昔はハンターだったらしい。
当時新米ハンターだった2人は意気投合しパーティーを組んで活動していたとか。
彼等は若くして功績を挙げていた未来有望なハンターだったが、商人の護衛依頼を受けた際この村を訪れライザックが現在の妻であるミミエラに一目惚れして通うようになった。
その付き添いで通っていたガリルは何度も来るうちにジャトとの仲が深まり、2人してこの村に骨を埋めることを決めたそうだ。
そのためガリルも賛同してくれるはずとのお墨付きをもらい、念の為ライザック同伴でガリルの説得に向かいあっけなく了承を得た。
そして3人でジャトを納得させる方法を考えた結果、ある条件を儲けることでジャトに安心してもらうと同時に説得の材料とすることにした。
それはライザックに勝つこと。
この村最高戦力のライザックと本気の模擬戦で勝つことで実力を証明し、旅に出ても安心だということを証明する。
ジャトは複雑そうな顔をしたが、その提案ならばと受け入れてくれた。
ライザックを倒す算段はついているため、そう遠くないうちに俺はこの村を離れることになる。
その時が来るまで家族との時間をより一層大切にしなければ。
差し詰め明日の朝食はお母さんと肩を並べて作るとしよう。
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