第30話
さて、件のケイトはというと苦戦しながらも早々に身体強化を使えるようになった。
といっても当時は本当に使えるようになっただけで、維持するのが精一杯。
少しでも動こうものなら解けてしまう有様だった。
今では魔力斬撃こそ使えないが、魔物狩りで俺に追走していた様に実戦で使える程度には仕上がった。
もっとも、まだまだ拙い所もあるがこれから仕上げていけばいいだけのこと、今後に期待といった感じだ。
ちなみに自警団の中にも偶発的にだが身体強化を使える者が出始めているので、使いこなすのも時間の問題だと思われる。
時々この村の自警団がどこを目指しているのかわからなくなってしまう。
君達すでに二流の戦士どころか、一流の域に片足突っ込んじゃってるからね?「いやぁ〜、俺達はまだまだっすよ〜」なんてヘラヘラしながら言ってたけど、俺やライザックを基準にしちゃダメだからね?
そんなこんなで月日はあっという間に過ぎ去ったというわけだ。
それからもう一つ、一緒にハンターになると言ったケイトはどういう交渉術を使ったのか、すでに両親の許可を得ている。
いつでも旅に出れる状態なのだが、律儀に俺が出発の条件を達成するのを待ってくれている。
そのため俺はさっさとライザックを倒さなければならない。
魔物狩りから帰った自警団は体を休めるべく数日間の休息を儲ける。
休息明けにライザックに模擬戦を申し込み、そこで決着をつけるつもりだ。
気兼ねなくハンターとなり、ケイトと共に世界を見て回る。
あの夜、星を眺めながら語った夢物語を実現するために頑張らなければ!
数日後、俺はいい加減見飽きてきた自警団詰所前の広場でライザックと対峙し、両手に短剣、背中に片手剣を背負って構える。
これが今の俺のスタイル、状況に応じて使い分ける三刀流。
口に加えて切りかかったりはしないが、力場を使った戦いを想定しているためこのスタイルとなった。
もっとも模擬戦で権能を使うつもりはないのだが。
「準備はいいか?」
「そっちこそ、倒される準備はできた?」
「はっ!威勢のいいこった、一度も勝てたことねえくせによ!」
「それも今日で最後、ソーンスタット村最強の座は私が貰う!」
「なら、その剣で証明して見せろ!」
俺達の挨拶を見届けたケイトは両者の準備が整ったのを確認し、片手を上げる。
そして勢いよく振り下ろし、開始の合図を告げる。
「始め!」
開始の合図と共に俺は両手の短刀を素早く振り抜き魔力斬撃を飛ばす、だけではなく斬撃に追従してライザックに接近する。
以前とは違い身体強化と脚部の集中強化による神速の踏み込みを、ライザックは同じく身体強化と腕部の集中強化で魔力斬撃を粉砕すると同時に俺に剣を振り下ろす。
尋常じゃない破壊力を持った斬撃が襲いかかるが、脚部の集中強化を維持したまま腕部を集中強化し、斬撃を受け止めると同時に魔力斬撃を放つ。
強化された腕力で振られた剣と魔力斬撃がライザックの剣を弾き返し胴体を晒す。
晒された胴体に切り掛かるとライザックは足先の力だけで後ろに飛び、短剣の間合いギリギリで回避する。
追撃に剣を振る頃には弾いた剣が戻り、上手く捌かれてしまう。
そして徐々に短剣の間合から離れていき、リーチ差を活かしたライザックの得意な間合いへと離される。
お互いに集中強化した剣のぶつかり合いに地面が陥没し、局所的な地震が断続的に発生する。
周囲には衝撃波の突風が吹き荒れ、一撃一撃が致命傷足り得る威力を誇る。
俺もライザックも加減などしていない、お互いの出せる力を尽くして戦っている。
もとより実力を証明するための模擬戦なのだ、本気でなければ意味がいない。
それに今日はジャトやガリルが見学に来ているのだ、今日とい今日は何がなんでも負けられない。
単純にいい所を見てもらいたいってのもある。
今日は勝ちに行かせてもらう!
剣がより一層強くぶつかり、お互いに吹き飛ばされる。
距離が離れたことで出方を伺うライザックに対し、こちらは短剣を腰の鞘に納め片手剣に持ち変える。
さて、ライザックはこの初見殺しに対処できるかな?
開始直後と同様に神速の踏み込みで接近し、それに対応するべくライザックが剣を振る。
俺はその剣を無視してライザックに切り掛かる。
先に剣を振っているライザックの方が到達が早いのは誰の目から見ても明らか、だが俺には秘策がある。
「なにッ!?」
剣は俺に触れる直前に障壁によって止められた。
魔力斬撃の派生技、魔力障壁。
これは剣に魔力を込めて斬撃を飛ばすのとは違い、体から直接魔力を放出して壁を作り身を守る盾とする技だ。
はっきり言って魔力斬撃より簡単な技術なのだが、空気中に魔力を展開すると霧散しやすいため一瞬しか強度を維持できない。
だが、この一瞬は戦士同士の戦いにおいては命取りになり得る。
集中強化された斬撃ですら防ぎ、決定的な隙を晒すライザックに今度こそ斬撃を浴びせる。
片手剣の間合いならば回避は間に合わない。
迫り来る剣を、ライザックは剣から片手を離し肘と膝で剣を挟んで受け止めた。
ライザックならば受け止めると思っていた。
俺はあらかじめ剣に込めていた魔力を操り、刀身から魔力の鎖が伸びてライザックを拘束する。
こちらも魔力斬撃の派生技、ただ障壁を生み出すのとは違い繊細な魔力操作が必要な技で、つい最近になってようやく実戦導入できる練度まで仕上がった隠し球だ。
魔力障壁同様一瞬しか強度を保てない代物だが、ライザックの動きを完全に封じて見せた。
俺は片手剣から手を離して腰の短剣を素早く抜き放ち、ライザックの首へ寸止めする。
「....私の勝ち」
「....俺の負けだ」
「勝負あり!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
ケイトの勝利宣言に自警団のみんなが歓声を上げる。
俺が自警団見習いになって幾度となく繰り広げられた模擬戦を団員は見届けてきた。
その全てが俺の負けで終わった。
だが今日、数年間の努力が勝利という形で実を結んだ。
団員の中には感極まって涙目になってる奴もいる。
まったく、なんで俺より感動しているんだか。
「やったな、ユウ!」
「ケイト君.....うん、これで旅に出られるね!」
「ついにこの日が来たのね....」
「お母さん」
ジャトが近付いてそう口にする。
今でも俺が旅に出ることを反対しているからだろうか、浮かない顔をしている。
「お母さん、私はライザックに勝てるくらい強くなったよ」
「ユウちゃんがここまで強い子だなんて知らなかったわ」
「これで旅に出ることを許してもらえるんだよね?」
「そうね、約束だものね.....本当に行っちゃうの?」
「うん」
俺がどう返すかなんてわかっていただろう、それでも一縷の望みが込められたジャトの問いに俺はキッパリ返す。
「そう....なのね....」
「お母さん、そんな顔をしないで。成人の儀には一度帰ってくるから」
これは俺とケイトで決めたことだ。
もし成人する前に旅に出ることになったら、成人の儀に参加するべく一度村に帰ろうというものだ。
それでも浮かない表情のジャトに俺は抱きついた。
身長差があって腰に抱きつく形になったが、これもジャトを、お母さんを安心させるためだ。
「お母さん、私は村に来る前は当てもなく彷徨ってたんだ」
「ユウちゃん....」
俺は安心させるべく用意していた言葉を紡ぐ。
多少の誇張や曲解はあるが、嘘偽りのない気持ちを伝える。
「1人で彷徨っている時、不安もあったけどそれ以上に好奇心があったんだ。この先に何があるんだろう?って。そして、好奇心に従がって向かった先でジルとガリルに出会った。それから村に迎え入れて貰って、お母さんができて家族ができた、とっても素敵で優しくて大好きな家族が」
「ユウちゃん」
「そして今の私は壁の外に好奇心が向いている。あの先に何があるんだろう?もしかしたら楽しいことがあるかもしれない、素敵なことが沢山あるかもしれない。この村で家族ができたように、かけがえのないものを見つけられたように.....だから私は旅に出たいんだ」
「そうなのね」
俺の言葉に嬉しそうな、されど寂しそうな表情でお母さんは微笑む。
旅行く我が子を、それでも笑顔で送ってくれようとするお母さんは、俺を強く出し締め頭を撫でる。
「わかったは、もう引き止めたりしない。だけど、代わり約束してちょうだい。絶対に帰ってくるって」
「うん、絶対に五体満足で帰ってくるよ。だから、私の成長を楽しみに待ってて。.....身長はもう伸びないんだけど」
「あら、お母さんは小さいユウちゃん大好きよ」
「小さいは余計ですー。私もお母さんが大好きだよ」
自警団のみんなに見られながらなのが少々気恥ずかしいが今は我慢しておこう。
そうしてお母さんの気が済むまで抱きしめられた。
「あの.....お母さん?もうそろそろ離して欲しいんだけど?」
「いや〜、もうちょっと〜」
「ガリル〜、助けて〜〜」
「すまんな、もう少し我慢してやってくれ」
「そ、そんな〜....」
それからしばらく離してもらえなかったのは言うまでもないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます