第19話
「さて、ユウはこっちこい」
「なに?」
いつもの倍の訓練メニューを終えるとライザックに呼び出されて広場に立たされる。
向かい側にはライザックが立っており、その他自警団員は詰め所の入り口付近で死体のように散らばっている。
尚、先に休んでいたケイトは回復したようで、死屍累々な惨状を駆け回りながら飲み水を配っていた。
ケイトは気の利くいい子なんです。
「どうにもお前さんは体力が有り余ってるみたいだな」
「そうみたい、今日した訓練量でもまだ余裕はある」
「だろうな。基礎体力は十分すぎる程あるなら、ユウにはこっちの方が良さそうだ」
そう言うとライザックは刃を潰した剣を投げ渡してくる。
受け取りやすいよう右側に柄が来てたのでそのまま受け取ると、ずっしりとした重さが手に伝わる。
見たら子供用の木剣とは長さが違い、大人が使う剣がそのまま渡されていた。
「ユウには今日から従来の訓練と追加で俺との模擬戦をしてもらう」
「わかった」
「それとお前ら、体を休めながらでいいからしっかり模擬戦の様子を観察しろ。例え体が動かなくなっても思考は巡らせろ、考えることをやめるな。それがいざって時に生き残る可能性を高めてくれる」
「「「はい!」」」
疲れていても返事は力強い自警団達。
ただその姿が地べたに転がっていなければ少しは様になっていたことだろう。
「ケイト、開始の合図を」
「はい」
呼ばれたケイトは俺とライザックの間に立ち片手を上げる。
そして両者の準備が整ったのを確認すると腕を振り下ろす。
「始め!」
開始の合図と共に三足刀法で接近する。
今回は手加減無しの全力を出しての接近だが、ライザックは冷静に動きを見定め剣を振り下ろしてくる。
獣のように風を切る俺に正確な一撃を浴びせてくるところを、背中に担いだ剣で受け流し背後を取る。
振り返る勢いを利用して剣を振ろうとしたが、それより先に蹴りが迫ってきたので剣を握っていない方の手で受け止め、横に振り払う。
下からすくい上げるような蹴りの衝撃で軽く宙を舞、後ろに飛ばされた俺に対しすぐさま姿勢を整えたライザックは、腕のリーチを生かしてこちらの間合いの外から剣を振る。
先程振り損ねた剣で対応するとそのまま打ち合いへと移行する。
剣技では互角だが体格差によるリーチでこちらが一方的に不利な打ち合いを強いられている。
一旦距離を取り仕切り直しを測ろうとするが下がった分だけ距離を詰められ、ならばと接近を試みるもこちらの間合いに入らないよう絶妙な距離間を保ち続けられる。
こうした剣技だけでない立ち回りはライザックが圧倒的に上手で、終始防戦を強いられた挙句、集中力が切れてきた頃合いにミスを誘われ致命打を受けたことで模擬戦は決着がついた。
「また負けた〜!」
「俺に勝つには経験が足りてないな。それと、お前反応が良過ぎてフェイントにかかり過ぎだ。もうちょい相手の攻撃を引きつけてから判断しろ」
「は〜い」
何度か攻撃を完璧に捌かれて反撃が掠めた時があるがそういうことだったのか。
こちらとしては上手く攻撃を仕掛けられたと思っていただけに不思議だったのだ。
「もう一度剣を構えろ、復習だ」
「はい」
模擬戦で打ち込まれた箇所が少々痛むが我慢して言われた通りに構える。
「お前がここだと思った時に打ち込んでみろ」
「わかった」
ライザックと再び対峙し隙を伺う。
数秒の睨み合いの後、ライザックの動く気配を感じ取りその行動を抑制するようにすぐさま反撃の剣を振る。
相手の出鼻を挫くいい反撃ができたはずなのだが、また完璧に捌かれて逆に反撃を返され寸止めされる。
「....どうして?」
「確かにユウの剣技と反応速度は立派なもんだ、だがどんなに立派でもくるとわかっていれば対処するのは簡単だ」
ライザック曰く、どうにも俺は相手の重心移動や目線、筋肉の微細な動きなどを無意識に捉え、そこから行動予測を立てるしまっているらしい。
そしてその反応速度を悪用して筋肉の伸縮と目線で俺の行動を誘導し、先程の完璧な反撃を実現してみせたという。
「さっきも言ったがもうちょい相手の攻撃を引きつけろ、お前の反応速度なら十分間に合うはずだ」
「やってみる」
その後も何度か剣を交えて復習を繰り返したが、フェイントの種類が豊富になっていきより高度な打ち合いを要求されるようになっていった。
どれほど打ち合おうと勝てる気がしないのだが、ちょっと強過ぎませんこの人?
[ケイト]
ライザックとユウが打ち合う中、俺はその攻防を唖然と見つめていた。
「やっぱすごいよな、あの2人」
「ここまで力の差を見せつけられると嫉妬すら沸かねぇな」
「すごい.....」
ついこの前剣を握ったばかりのユウが、この村で1番強いライザックに指導を受けている。
「それに比べて俺は...」
剣の腕はすでに追い抜かれ、訓練の途中で倒れる始末。
こんなんじゃユウの側にいる資格はない....
ユウはいつも一緒にいてたまに妙なことを言い出すおかしな奴で、俺が面倒見ないと何をやらかすかわからないところがある、そう思ってた。
だからなのか、初めての模擬戦でユウがライザックと打ち合う姿を見た時、剣を交えるごとに成長していく姿に焦りを覚えた。
そして今、目の前で繰り広げられている戦いを見ていると、ユウが遠くへ行ってしまうような気がして胸がざわく。
ユウは....本当にいつか遠くへ行ってしまうんじゃないかと、どこか確信めいた予感がする。
だから、いつの日かユウが本当に遠くへ行ってしまう時、ユウと一緒にいられるように、隣に立っても恥ずかしくないように強くなりたい。
「俺も負けてられないな」
だから今は、この模擬戦を目に焼き付け少しでもその技を学ぶんだ。
呆けていた意識を切り替え、2人の模擬戦を見逃さぬよう目を凝らす。
「負けてられないのは俺達の方だっての」
「だな」
熱心に模擬戦を観察するケイトの姿につられ、自警団員も真剣な眼差しを2人に向ける。
この日以来、新人を加えた自警団はより一層訓練に励むようになった。
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