第17話

 ジャト、ガリル、俺、ライザックが一つのテーブルに着き、ただならぬ雰囲気を醸し出しながら見つめ合う。

 方や目だけ笑っていない微笑みを浮かべ、もう片方は毅然とした態度を取る。

 そんな中俺はどうすればいいかわからずあたふたし、反対側のガリルは腕を組んで目を瞑り落ち着いているご様子。

 ジルはというと、この物々しい空気を感じ取った瞬間回れ右して玄関を閉じ、どこかへと行ってしまった。

 こんな時こそお兄ちゃん風を吹かして助けて欲しいものだ。

 そんな空気を崩したのはライザックの声だった。


「ジャトさん、ユウから聞いたとは思うが俺はこいつを自警団見習いにしたいと思ってる」

「ええ、聞いたわ。うちの可愛いユウちゃんを危険な自警団に勧誘してるんだってね?」

「ああ、もちろん成人するまでは訓練を重点的にしてもらうが、行けそうなら魔物狩りにも参加させようと考えてる」

「いくら才能があるとはいえ子供には早すぎるんじゃない?まだこんなに小さいのよ?」

「だがその体躯で自警団員を顔色一つ変えず一撃で沈める実力者だ、そんじょそこらの才覚とは訳が違う。それこそ戦神ガナシュ様の化身と言われても納得するくらいだ」



 あの、本人を前に容赦なく身長のこと揶揄するのやめてもらえます?地味に気にしてるんですけど?

 それにしても戦神ガナシュ様の化身とは随分高く評価してくれているものだ。

 この世界では数多の神が存在しており、豊穣の神様や狩猟の神様、芸術の神様や鍛冶の神様などなど多岐にわたる。

 そしてその神様は前世のような曖昧な存在ではなく、しっかりと実在するのだ。

 例えばよく人前に姿を表すことで有名な酒の神様シュドルズ、彼は世界に新たな美酒が生まれると、その酒に祝福を与えたり、もっとも盛り上がる宴の席に紛れ込んで酒盛りを楽しんでいたりするらしい。

 そんな感じでこの世界では神様の存在は意外と身近にある。

 そういった理由もあり、神様の化身という評価はもっとも高くその者を評価する時に使われる言い回しで、それだけライザックが俺に目をかけてくれているということだ。


「自警団の団長を務める貴方がそこまで言うのだからユウちゃんはとっても才能があるのね。それでも、親としては子供が危険な目に合うのを了承することはできないわ」

「だがこのまま才能を腐らせるのはこの子のためにならんだろう」

「それでもダメなものはダメです」


 ジャトは何がなんでもダメと言わんばかりに自警団見習いの件を否定する。

 ここまで頑なに否定されるとは予想外だ。

 普段温厚で優しく、少々可愛いものに目がないジャトだが、理性的で皆んなのことを考えてくれる良き母親だ。

 それがここまで頑なだと自警団、あるいはその仕事に何か良くない記憶でもあるのだろうか?

 きっとそうなのだろうな。

 俺はジャトとガリルがどういったい経緯で村に家を構え、どういう積み重ねがあって生活してきたのかを知らない。

 優しいジャトがあれだけ否定するのには相応の理由があるのだろう.....

 などと思っていると、ガリルが目を開きジャトへと顔を向ける。


「なあジャト、お前もしかしてユウがこの前みたいにお腹に痣を作ってくるのが嫌なだけじゃないか?」

「えっ?」

「あん?どういうことだガリル?」


 ガリルの放った言葉が予想外なものだったのでつい声が漏れる。

 そして確認するようにジャトに顔を向けると、そっぽを向いて口を噤んでいた。

 ....えっ?マジでそんな理由なの?


「はぁ、やっぱりな」

「だ、だってユウちゃんの可愛い柔肌にあんな大きな痣ができたら嫌なんだもん!」

「嫌なんだもんって.....ジャトさん貴女って人は....」

「なによ〜、女の子なんだからお肌に傷が付いたら大問題なのよ!」


 ライザックが呆れて物も言えなくり、その反応に心外だと言いたげに頬を膨らませて講義するジャト。

 いや、抗議したいのはこちらですよ。

 なんか唯ならぬ雰囲気だったので深刻な過去でもあったのかと邪推してしまったではないか。

 結局は可愛いものに目がないだけだったと言うことか。


「ジャト、ユウを心配する気持ちはわかるが、お前の我儘でユウの可能性まで抑圧するのはよくない」

「......はい」

「それに、例え壁の中にいたとしても必ずしも安全なわけじゃない。そうなった時、生存する術を身につけておく方がユウのためになるんじゃないか?それとも、ジャトはこの子が理不尽に晒される姿を見たいのか?」

「.....いやです」

「なら2人に言うことがあるんじゃないか?」

「そうね....」


 ガリルにそう諭されたジャトは席から立つと俺とライザックに向けて頭を下げる。


「ごめんねユウちゃん、可愛いからって私の我儘で碌に話も聞かずに否定して」

「い、いえ、そんなことは、お母さんは心配してくれていたのですから」

「それとライザックさん、娘をよろしくお願いします」

「おう、任せとけ。あ〜あと、痣の件はすまなかった」


 何はともあれ、少々お騒がせなお母さんの説得は無事果たすことができ、俺は自警団見習いとしてライザックに師事することとなった。

 まったくこの母親は、可愛いものには本当に目がないんだから。

 まぁでも、心配してくれた気持ちは本物だろうから、なるべく傷ができないよう気をつけるとするか。

 女の子に傷ができたら(ジャトが)大問題面倒だからな。

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