第16話
「なぁユウ、お前自警団に入らないか?」
「私がですか?」
自警団員を全員一撃で沈めた後、ライザックが素振りから鍛え直している所に混ざっていると、そう声をかけられた。
「と言っても子供を正式に自警団に入れるわけには行かないから、自警団見習いって扱いになるがな。お前の実力なら魔物と戦っても問題なねえだろうし、俺が同行すれば魔物狩りにも参加させられるだろう」
自警団は農村周辺の魔物が増え過ぎないよう定期的に魔物狩りに出かける。
その際狩った魔物の素材は貴重な収入源にもなる。
いつしかこの村を出てハンターとなり、異世界を見て回ろうと考えている俺としては願ってもない提案だ。
まぁ、最近はこのまま田舎でスローライフを送るのも悪くないかとも思っていなくもないが。
そこは追々考えていけば良い。
それより目下の問題は自警団見習いになるかどうかだが、答えはもちろん——
「ダメよ」
「でも、ライザックさんも一緒ですし、成人するまでは壁の見える範囲しか狩には行かないと....」
「ダ〜メ、ユウちゃんは子供なのよ?母親としてはそんな危険なことはさせられません」
「そ、そこを何とか」
「ダメったらダ〜メ」
自警団見習いの件は子供だけで決めて良いことではないので親御さんの了承、つまりガリルとジャトに話を通さなければならず、手始めにジャトに話した所ご覧の有様である。
ジャトはツーンと唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。
この状態に陥ったジャトはまず話を聞いてくれず、唯一説得できるガリルは現在狩に出かけている。
もうすぐ夕暮れ時なのでもうそろそろ帰ってくると思うのだが、どうしたものか.....
それにしても、子供っぽい仕草にも関わらず年齢を感じさせない可愛らしさを醸し出すその姿は、とても一児の母とは思えないな。
「ただいま」
「邪魔するぜ」
そんなことを考えながら途方に暮れていると、玄関を開く音と共にガリルと、何故かライザックの声が響く。
どうしてライザックがここに?
「お帰りなさい。あら、ライザックこんにちは。要件はうちのユウちゃんのことかしら?」
「ああ、そうだ」
あの〜ジャトさん?微笑みを浮かべてるように見せかけて目が笑っていませんよ?
どうやら自警団見習いに誘った張本人であるライザックにヘイトが向かってしまったようだ。
そんな威圧など知らんとばかりに平然としているライザックと、尚も目が笑っていないジャトを交互に見たガリルは、ため息交じりに2人を促す。
「はぁ、とりあえずこんな所に突っ立ってないで中に入れさせてくれないか?」
「わかったは、飲み物を持って来ますね。長〜いお話になりそうだもの」
ジャトはそう言い残すと調理場へと向かっていった。
「ライザック、多少は擁護してやる。ジャトは頑固者だが、話が通じないわけじゃない。しっかり話せばわかってくれるだろう」
「ガリル、お前よくあんなおっかない奥さん捕まえられたな?」
「逆だ、俺が捕まったんだ」
何やら2人で盛り上がってるとこ申し訳ないが、ライザックがここに来た具体的な理由をお聞かせ願えないだろうか?
「ところでライザックさんはどうしてここに?」
「ああ、帰る途中でガリルに会って今日のことを話したんだよ、自警団見習いの事も含めてな。そしたらこいつが『ジャトはユウのことをかなり可愛がってるから、危険なことはさせたがらないと思うぞ』って言うもんで、一応説得というか勧誘した者として直接話を通しに来たんだが.....こりゃ手こずりそうだな」
「そうなんですか、とても助かります。正直私には手に負えなかったので。ところでガリルさんは反対しないんですか?」
「自警団見習いの件か?」
「はい」
ガリルはジャトほどではないが可愛がってくれており、俺を本当の娘のように家族として受け入れてくれている。
心配もしてくれるし、女の子らしく着飾ると似合ってるぞと褒めてくれる。
親としては危険を伴う自警団に成人もしてない子供を入れるのは反対ではなかろうかと思ったのだが、どうやらガリルは反対しないでくれるようだ。
「そうだな、心配と言えば心配だが、ライザックが実力を認めていて実際に自警団の奴らを倒したのなら才能があるのだろう。若いうちに経験を積ませておいて損はない」
「ガリルさん....」
俺の意思を尊重してかガリルは自警団見習いに賛同してくれる。
何よりその方が将来俺のためになるからと真剣に考えてくれての事だとわかり、無性に嬉しく思う。
言ってしまえば俺は余所者だ、ガリルもジャトも俺を育てる義理はない。
それでもこうして本当の子供のように育て将来を考えてくれている。
.......少し胸が痛くなった。
それは2人に隠し事をしていることへの罪悪感から来るものだろう。
正直今更何を言っているんだと思う、だけど2人が心から俺の身を案じているのを実感すると、思い出したかのように胸の内に引っかかる物を感じる。
そんな心の内を悟られぬようにしていたつもりなのだが、ガリルは何か感じ取ったのか大きな手を俺の頭に乗せると優しく撫でてくる。
「ユウはいい子で手がかからないからな、たまの我儘くらいは聞いてやらないと親としての面目が立たない。だからもう少し我儘を言いなさい」
「....はい、ありがとうございます」
ガリルの優しさを頭に乗った手から感じる。
子供を愛しむ親の手だ。
俺はこの手の温もりが嘘になってしまわないよう、内にある秘密を隠し通さなければならない。
そうすることが子供として迎え入れてくれた2人へのせめてもの恩返しだ。
だから今は子供らしく、ガリルの望むように我儘を言うとしよう。
「それではガリルさんの隠してるお酒を一口ください」
「それはダメだ」
「えぇ〜、我儘を言ったじゃないですか。親としての面目はどうしたんですか〜」
「子供に酒を飲ませないのも親の責務だ」
「そんなぁ〜.....」
「大人になったら一緒に飲もうな?」
「は〜い」
わざと不貞腐れた素振りを見せ頬を膨らませる。
そうするとガリルは荒々しく頭を撫で、そんな約束を口にする。
いつの日か、2人にとって大人になった時、ジルも交えて4人でお酒を飲むのも良いかもしれない。
その時は自分で稼いだお金でちょっといいお酒でも買って家族に振る舞おう。
そのためにも今は目下の問題を片付けなければ。
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