第15話

 ライザックに詰め所前まで案内してもらうと、すでにトリスタン含め自警団のみんなが集まっていた。


「ほれ、おチビちゃんはこれ使いな」

「ありがとうございます」


 近くまで行くとトリスタンが子供用の木剣を渡してくれた。


「おいトリスタン、手加減し過ぎて負けるんじゃないぞ!」

「相手は子供なんだから怪我させんなよ〜」

「わかってるってのうるせぇな!」


 何やら外野が囃し立てているが、トリスタンは煩わしそうに怒鳴り返す。

 ほほう?随分余裕そうじゃないないか若造。

 見たところトリスタンは20歳やそこら、それに対して俺は前世では25歳まで生きているため若造で間違いないはず。

 20代の5歳差なんて対して違いはないかもしれないが気持ちの問題だ。

 油断、慢心、子供相手だからという偏見、それが致命傷となることを身をもって思い知らせてやろう。


「それじゃお前ら位置につけ」


 俺とトリスタンは適度に距離を取り、互いに向かい合う。


「何だその構え?」

「お気になさらず」


 トリスタンは木剣を正面に見据えたオーソドックスな構えに対し、俺は左手を地面に付け、姿勢をなるべく低くして木剣を背中に背負い、獣が獲物を狙うような姿勢で構える。

 俺はライザックとの模擬戦の後、習得した剣技を前世の漫画やアニメを参考に自分なりの剣技を模索した。

 どうせこの体は成人済みなので身長が伸びることはない。

 ならばこの低身長を活用できる剣技を考えようと思ったのと、内なる厨二病が再発した末に出来上がった剣技。

 その名も、三足刀法!

 両足と左手で地面を蹴り、低い位置から攻撃を繰り出す戦法で、姿勢も低く攻撃を当てづらくすることを目的とし、相手の攻撃を掻い潜るスピードタイプの戦闘スタイルだ!

 剣を使っているから三足法なのでは?という疑問は受け付けない。

 刀法の方が語感がいいから三足刀法でいいの!


「準備はいいな?」


 おっと、そんなことを考えてる場合ではなかった。

 俺は改めてトリスタンに意識を集中させて返答する。


「はい」

「大丈夫っす」

「では、始め!!」


 ライザックの恫喝にも似た鋭い声を合図に戦いの火蓋が切られた。


「どっからでもかかって来ていいっすよ」

「それでは遠慮なく」


 トリスタンは余裕の表情を浮かべて先手を譲ってくれたので、容赦も遠慮もなく行かせてもらう。

 俺は両足と左手に最大限の力を込める。


「へっ?」


 すると自分でも予想外なことに地面に亀裂が入ってしまい、トリスタンから間抜けな声が漏れる。

 まさかこの体にそんな力があったとは....

 まぁいい、相手が間抜け顔を晒している隙に攻撃を始めてしまおう。

 溜め込んだ力を一気に解き放ち、瞬く間にトリスタンに近づく。

 木剣の間合いに入る寸前でようやく再起動したトリスタンは、咄嗟に木剣を振って対処しようとしたが、素早く軌道を読み取り、地面スレスレまで姿勢を低くして掻い潜る。

 そして、ガラ空きとなったトリスタンの横っ腹に木剣を叩きつける。

 ライザックのように蹴りでの反撃を警戒したため反応できるよう軽く振ったつもりだったが、トリスタンは盛大に吹き飛び、地面を3度バウンドして体を大地に擦り付けていた。

 あ、あっれ〜?そんな強い力は込めていないはずなんだけど?


「そこまで!ユウの勝ちだ」

「えっあ、そうですか.....あ、あの〜、それより大丈夫ですか、あの人?」

「ギ、ギリギリ大丈夫っす.....けど.....できれば誰か、助け起こして欲しいっす.....」

「おいそこの、あいつを運んでやれ」

「はい!」


 トリスタンは掠れた声で横たわったまま片手を上げて生存報告をしたが、そこまでが限界のようで、ライザックに指示された自警団員に救急搬送されて行った。

 何というか、ごめん....

 ライザックとの戦闘では軽くあしらわれていたのでこれくらいなら大丈夫かな〜とか思いながら力を加えていたのだが、どうやらライザックだから耐えられていたらしい。

 今の感じだとまともに打ち合っても力技で相手の剣を弾けてしまうだろうなぁ。

 そう思いながら木剣を振って加減の調整をしていると、やる気十分と見たのかはたまた物足りないと見たのか、ライザックが次の自警団員を前に立たせる。


「よし次はお前だ。見ての通りユウはお前らなんかよりよっぽど強い、油断なんかしようものならトリスタンのように一撃でボロ雑巾だ。それともう一つ、次あいつみたいに無様な負け方した奴は訓練メニューを追加する。死ぬ気でやれ」

「「「「は、はい!!!」」」」


 自警団員は皆声を揃えて返事をする。

 そこに先ほどまでの余裕や油断はなく、恐怖と緊張から張り詰めた空気が出来上がった。


「それじゃユウ、こいつらを殺さない程度にボコボコにしていいぞ」

「え〜っと、はい、わかりました?」


 その後、自警団員を一人一人相手していったが、俺に攻撃を当てられた者は疎か、一撃でも耐えられた者は1人もいなかった。

 これほどのものを涼しい顔でいなしていたライザックは一体何者なんだ?

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