第14話

「おいそこ、剣がブレてるぞ!もっと腕に力込めろ!」

「はい!」

「そっちの奴、筋トレサボってるのに気づいてないと思うなよ!」

「は、はいぃぃ!?」


 自警団の詰め所周辺でライザックのそんな声が響く。

 今日は子供達の剣の訓練の日、ではなく自警団の訓練を覗きに来ていた。

 子供に剣を教える際は村の中央にある広場を使うが、自警団の訓練は東側にある自警団詰め所で行われる。

 詰め所といっても剣や弓、盾に槍、他は鎧などが収納されている倉庫のような扱いで、その周囲の空き地に鎧を着せたカカシと円が描かれた的が設置してあるくらいだ。

 初めて木剣を握ったあの日、ライザックの剣技を受け、その一振り一振りを目にする度に俺の剣の腕がその場で上達していった。

 もしかしたら俺に剣の才能があるのかも!なんて思うはずもなく、十中八九神様お手製のこの体の性能だろう。

 技は見て盗めというが、俺の場合見た技をその場で体に落とし込めてしまっている。

 これでは真面目に研鑽を積んでいる武人に申し訳ないがたたない。

 だが、この世界は弱肉強食。もし権能が何らかの理由で使えなくなった時、権能一辺倒では立ち行かなくなる。

 武の修練によって磨き上げられた成果を横から掻っ攫うみたいで気が引けるが、身につけられる技術は積極的に習得していこう。

 そう思っての自警団訓練の覗き見だったのだが、弓の訓練以外に収穫は無さそうだ。

 というのも、剣の腕前は自警団ではライザックが圧倒的に上で、部下に指導している状況下では模擬戦で得られた以上のものを見ることができない。

 弓の方は一度も見たことがなかったため訓練を覗き見することで姿勢や構えを正確に把握し、自身の体に落とし込めた。

 この感覚は何度やっても不思議なものだ。

 まるで長年訓練してきたかのように体が自然に動き、体格差や骨格の違いがあるにも関わらず違和感なく再現できるのだから。

 遠距離攻撃手段は俺にとっても貴重なものだ、なにせ侵食世界は範囲内であればほぼ無敵だが、範囲外には何もできない。

 そのため侵食世界内部で加速させたり、弾道修正をしたりする以外の活用法が思いつかない。

 その弱点を見破られた時、敵対者は徹底して距離を離しにくることだろう。

 そういう時に役立つのが遠距離攻撃手段だ。

 できればもっと高い技術の弓か投擲術を習得できればいいが、あまり期待できそうにないな。


「お〜い、そこのガキ何してんだぁ〜」


 などと思っていると気配を感じ取ったライザックが俺を見つけて呼びかける。

 見つかってしまったのなら仕方ない。

 やましいことをしているたわけではないので大人しくライザック含め自警団達の下に姿を晒す。


「こんにちは」

「お?この前の天才児じゃねぇか」

「なんですかそれ?私にはユウって名前があるんですよ」


 天才児とはまた妙な呼び名がついたものだ。

 まぁ初めての模擬戦で子供があれだけ動けていれば天才児と呼ばれても仕方はないが、他人もとい他神からもらった力なので何だか釈然としない。


「どうしたんすか団長?」

「この前見込みのある奴がいるって話したよな?」

「はい、模擬戦中にすごい勢いで上達していった天才がいるってやつっすよね?」

「それがこいつだ」

「えっ、こんなちっこい子供が?」

「小さくて悪かったですね」


 ライザックの近くにいた軽薄そうな長身細身な茶髪野郎に低身長を揶揄された。

 こちとらなりたくてこの姿になったわけじゃないんだよ。


「そうだ、少なくとも剣の腕前ならお前より強いぞトリスタン」


 アーサーといいトリスタンといい、この村は密かに円卓の騎士でもいるのだろうか?暇な時にでも村民の名前を聞いて回ってみようか?もしかしたらガウェインやらランスロットやらが出てくるかもしれない。


「いやいや、いくら何でもそれは言い過ぎっすよ。俺がこんなガキに引けを取るわけないじゃないっすか。冗談きついっすよ団長」

「うむ、最近自警団も弛んできているしちょうどいい。ユウ、だったか?もしよかったらこいつと模擬戦してみないか?」

「やります」

「即答か、いい返事だ」


 ライザックの突然の申し出に二つ返事で返す。

 技術は見るだけでも身につくが、実戦経験までは身につかない。

 現にライザックとの模擬戦も剣の腕前では引けを取っていないと思っているが、掌で転がされていたのが現状。

 ここで経験を積めるならまさに渡りに船、断る理由はないだろう。

 俺の返答が気に入ったのかライザックは体格に似合う大きな手で頭を撫でた後、トリスタンに指示を出す。


「トリスタン、今いる自警団員を詰め所前に集合するよう伝えろ。その後お前は木剣を持って模擬戦の準備だ」

「本気っすか?こんな子供相手に...」

「ああ、本気だ」

「.....はぁ、わかりやしたよ」


 トリスタンは乗り気じゃ無さそうな態度で自警団員を集めにいった。


「あの、今更なんですけど.....訓練の邪魔になりませんかね?」

「うん?そんなことはねぇぞ、どうせ今の弛んだ状態じゃ碌に身がはいらねぇだろうしな。むしろお前がトリスタンをぶっ飛ばしてくれりゃあいつらにもいい刺激になるだろ」

「そういうものですか」

「そういうもんだ。だからお前は安心して全力を出せ。そしてあいつらを完膚なきまでにボコボコにしてこい」

「私にそこまでの実力があるでしょうか?ライザックさんとの模擬戦では手も足も出なかったのに.....」

「ちげぇよ、お前は初めての模擬戦で俺に足を出させたんだ。初めて剣を握る奴に小細工を弄する必要があった、そうでもしないと負けそうだと感じたんだ。この村じゃそこまで戦える奴はいねぇ、だから自信持ちな」

「.....はい、わかりました」


 どうやらライザックは俺の見た目がどうあれ、正確に力量を把握してくれているようだ。

 そこまで言われたのならこちらも期待に応えようじゃないか!

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