第11話
「最後はお前達だな」
「はい!」
「はい」
ケイトが力強く返事し、俺もそれに続く。
どうやら模擬戦を行うのは最年少の初参加組だけらしく、年長組は模擬戦見学の後、素振りなどを行うようだ。
大男の前に立った俺とケイトは剣を構える。
剣なんて修学旅行で買った木刀くらいしか握ったことはないので、大男の見様見真似で構える。
ケイトはというと、すでに誰かに教えを受けていたのかそれなりに構えっぽいものができている。
「ほう」
他の子供達とは違いちゃんとした構えができていたからか、大男は感心したような声をこぼす。
「よし、どこからでもかかってこい」
「はい!」
ケイトはその言葉に答えるように大男に向かってまっすく走って行った。
さて、ここで権能でも使えば簡単に勝つことはできるが、それでは意味がない。
これは訓練であって勝負ではないのだから。
故に今回は権能は使わない。もちろん偽装のために使っている力場も使わない。
ここは自前の身体能力だけで戦い、学べるものは学ばせてもらう。
俺はケイトの背に隠れるようにして後に続き、ケイトが大男に剣を振るのに合わせケイトの頭上を飛び越える跳躍をし、大男に木剣を振り下ろす。
大男は一瞬驚きの表情を浮かべるが、ケイトの木剣を冷静に受け止め、俺の木剣も最小限の動きで躱された。
「おらよ!」
大男は木剣を受け止めた方の腕を振るい、ケイトの軽い体ごと吹き飛ばす。
ケイトは吹き飛ばされながらも体勢を崩すことなく着地していたが、大男はそれに目を向けることなく、意趣返しとでも言いたげに着地したばかりの俺に向けて木剣を振り下ろしてきた。
なので俺も大男がしたようにこの体の身体能力と反射神経をフル活用し、木剣が触れるギリギリのタイミングで最小限の動きで躱し、反撃の突きを放つ。
俺の突きを軽々と躱した大男は振り下ろした木剣で土を巻き込みながら豪快に振るい、俺を間合いから排除しようと動く。
小柄な体を生かして木剣を掻い潜り大男の背面に回って攻撃しようとした時、腹に衝撃を受け攻撃を中断させられた。
「ウッ!?」
「ユウ!」
見れば大男は振り返ることなく足を突き出し、正確に俺の位置へ回し蹴りを入れていた。
背後を取ったと油断していた!注意していればこの体なら反応できたはずなのに。
蹴りで飛ばされた俺は木剣で地面を叩き、空中で体勢を立て直す。
他の子供達と同じように手加減しているせいか、俺にはほとんどダメージは無かった。
見た目こそ子供だが身体能力自体は高い性能を持っているため頑丈さもそれなりにあるらしい。
「う〜ん、厄介だな。まずはお前から倒すか」
大男はそう言うと、ケイトには見向きもせず俺に向かって走り寄ってくる。
そのスピードは明らかに子供達を相手する時とは違い、数段早くなっている。
蹴りの感触か何かで加減が必要ないとでも思ったのだろうか、振るう木剣にも今までの比じゃない力が加わっている。
力強い攻撃と体格に似合わない速さ、絶え間無く繰り出される木剣に防御を強制される。
一つ一つの動きは追えているが、圧倒的に技量が足りていない。
ここで下手な反撃を仕掛けても決定的な隙になってとどめを刺されるだけだ、今はただ相手の一挙手一投足を観察し剣の振り方や足運び、目線の動きを把握して自分のものとしろ!
一つ、また一つ、目にした剣技が記憶に焼き付き理解が深まる。
少しずつ受け流しができるようになり、次第に木剣を振るう大男の動きが鈍くなる。
受け流し、弾き、大男の次の一手を遅らせる。
大男は攻撃がし辛くなったことに気づき顔を歪めるが、それでも猛攻は緩めない。
より強く、より速く振るわれる木剣は、されど俺に届くことはなく、大男の剣技は完全に掌握した。
俺は木剣を受け流し、それでも無理矢理振るわれた大男の攻撃を弾いて胴体をガラ空きにした。
勝った!
内心そう叫んだ。
とどめの一撃を打ち込もうとした瞬間、大男はニヤリと笑った。
「—ッ!?」
誘われたと気づいた時には腹に強い衝撃をくらい、呼吸が苦しくなる。
1度目とは比較にならない激痛に地面に転がり立ち上がることができず、胃の中身が這い上がりそのまま嘔吐した。
「うぅっ」
「動きは悪くないが、同じ手に2度も引っかかっちゃいけねぇな」
見れば大男は足を振り切った後だった。
油断した、剣技にばかり意識が行って相手の誘いに乗ってしまった。
警戒していれば対処できたはずだ、それだけの身体能力がこの体には備わっている。
経験不足、慢心、絶好の機会を前にしての油断、それらを見透かしたような強烈な一撃を食らわされた。
痛みに悶えながら立ちあがろうとするが、手足に上手く力が入らず、生まれたての子鹿のように震えてしまう。
たった一撃食らっただけでこの始末。
アニメや漫画で油断すれば命取りになると言う台詞は飽きるほど聞いたが、その意味を本当の意味で理解できた。
戦闘中にこんな状態にさせられては命を狩られるのを待つ他ない。
「さて、残りはお前だな」
「クッ、俺だってやってやる!」
戦闘不能に陥った俺を他所に、大男はケイトと向かい合い、案の定他の子供達同様痛めつけられて模擬戦を終えた。
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