第10話

「よく集まったなガキ共」


 ソーンスタット村での生活に半年は経っただろうか?いまいち日付の感覚が曖昧だがおそらくそれくらいの月日が経過した今日この頃。

 俺とケイトはすっかり2人で行動することが当たり前となり、今も村の子供達が勢揃いする広場で並んで立っている。

 目の前には大柄な男が木剣を構えており、子供達もそれぞれ子供用の木剣を握らされている。

 いったい何事かと思い首を傾げていると、例の如くケイトが教えてくれた。

 なんでも定期的に集まって剣や弓の訓練をするのだと。

 ソーンスタット村などの田舎の農村は、盗賊や魔物から身を守るため村人が自ら武器を握る。

 それは何もソーンスタット村に限らず、どこの農村も基本は自衛しているらしい。

 一応国に仕える騎士が巡回警備してくれているようだが、ディセイド王国全土を隅々まで巡回することは不可能だ。

 そのため身を守る、あるいは騎士が救援に来るまでの時間稼ぎができるようにしておかなければならない。

 いわゆる自警団というやつだ。


「とりあえずお前ら、2人組を作れ」


 出たなペア組!学生時代に数々の学生に苦悩と苦渋を与えた呪いの言葉!

 だが残念だったな!俺にはケイトというパートナーがすでに決まっている。

 前世の学生時代とは違うのだよ!


「どうしたんだユウ?」

「ううん、なんでもない」


 いかんいかん、前世の嫌な記憶を思い出してしまった。

 俺は大柄な男に言われた通りケイトと2人組を作る。


「よし、みんな組めたみたいだな。うちの村では基本2人1組での訓練を行う。訓練中は常にお互いの手が届く位置にいるように」

「「「は〜い」」」


 つまり相棒ってことですか?できれば美少女と組みたいところだったが、相手はケイトだから許そうではないか。


「そんじゃ手始めに模擬戦を始める。そこの2人、こっちこい」


 えっ、手始めが模擬戦なの?普通素振りとか筋トレとか体力作りから始めない?

 これもこの村の方針なのか指名された2人が大柄な男の前に立たされる。

 訓練の参加者は5つくらい離れた年長組と、俺やケイト他数名の年少組とで大まかに別かれており、年長組はすでに経験済みなのか呼ばれた2人組を気の毒そうに眺めている。

 模擬戦の相手は指南役の大柄な男。

 剣の振り方も知らないような子供と比較すると、ゴブリン対オーガのような構図だ。

 どちらも実物は見たことないが。


「どこからでもいい、かかってこい」

「「おりゃぁぁ!」」


 血気盛んな男の子2人組は愚直にオーガ、大男に突進していくが、がむしゃらに振った木剣が当たるはずもなく、図体に似合わぬ身のこなしで躱される。

 そして周りのことなど見えていない子供達は子供同士でぶつかり合いお互いに転倒していた。


「ほらほら、敵の前で寝転がってどうする?転んだらすぐに立て、じゃないと—」


 大男はそう言いながら立ちあがろうと地面に手をついていた片方の子を蹴飛ばす。


「こうなるぞ?」


 もう1人の蹴られていない方の子はその光景に萎縮し動けなくなっていた。そんな子を大男は容赦なく蹴飛ばし、1人目と同じ目に合わせる。

 蹴飛ばされた子供達は悲鳴すら上げられずにうずくまっている。

 手加減はしているようだが、あまりにも容赦がない。

 前世なら児童虐待で一発レットカードだろうが、生憎ここは異世界でありこの村は今までこうして生存の術を学んでいたのだろう。

 それを証拠に大男は子供2人の怪我の具合を確認したのち、参加者全員に目を向けて声を張る。


「いいかお前ら、これは遊びじゃねぇ。俺達を襲う魔物や盗賊はこれ以上に非道な行いをしてくる。そうした時、お前の家族、友人、村民達が苦しむことになる。想像しろ、大好きな両親がこいつらみたいにうずくまる姿を、友達が傷だらけになって倒れる姿を。隣のパートナーを見て考えてみろ、そいつの顔が2度と見れなくなる未来を」


 俺は言われた通り、隣に立つケイトに顔を向ける。

 そこにはこの半年ですっかり見慣れたケイトの顔が映り、一緒に遊んだり、木の実をとって分け合った記憶が脳裏をよぎる。

 子供らしくはしゃいでいる時もあれば、懇切丁寧に説明してくれている真面目な顔もあり、怪我をして涙目になった時もある。

 そんな彼が、先程の子供のように地面に倒れる姿を想像する。

 傷だらけになり、身体中土と血に汚れて横たわるケイトの姿を想像する。


「....いやだな」


 無意識に言葉が漏れる。

 親切にしてくれた友人がそんな姿になるのは嫌だと思った。

 当然のことだが前世では縁の無かったことで、想像はできたとしても実感なんて湧かなかっただろう。

 けど、この世界ではいつ起きてもおかしくないのだと、大男の真剣な言葉で実感させられた。


「いい顔になったな」


 他の子供達もそう思ったのだろう、最初は浮ついた雰囲気が漂っていた広場は、大切な人を守りたいという意志と決意でまとまった。

 それはまだまだ幼い子供の決意だが、それでも守りたいという意志に変わりない。


「よし、訓練を再開する。次はお前らだ」

「「はい!!」」


 指名された子供達は一際声を張り上げ、大男の前に踏み出して行った。

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