第9話

「ユウちゃん遅〜い!」

「アストンさんのお手伝いしてた」


 大工の手伝いを終えた俺は、ジルと昼食を食べ終え、子供の責務を果たしにきた。

 数少ない他の子供と一緒に遊ぶという責務だ。

 精神年齢がいい歳した大人が子供に紛れて遊ぶのもどうかと思ったが、見た目がこれである以上、子供扱いを受けるのは仕方がない。

 いいではないか、たまには童心に帰って子供らしく遊ぶのも。大人になってから働き詰めで碌に遊ぶ時間も無かったのだから、異世界でくらいは見た目相応に子供らしく、好き勝手に生きようじゃないか。

 そう自分に言い聞かせて子供達の輪の中に入る。


「今日は何するの?」

「獲物と狩人!」

「それ昨日やったでしょ」

「衛兵と囚人がいい」

「それじゃ、言い出したあんたが衛兵ね」

「20数えたら探しにきなさい」

「みんな逃げろ〜!」


 口を挟む間もなく遊びが決められ、蜘蛛の巣を散らすように数人の子供達が散っていった。

 恐るべき子供の行動力。

 ちなみに獲物と狩人とは前世で言うところの隠れん坊で、衛兵と囚人は警泥のようなものだ。


「ユウ、逃げるぞ」

「うん」


 子供達の勢いに呆気に取られていると、子供達の1人、見た目だけなら同い年くらいの男の子に手を引かれた。

 この子の名前はケイト、俺が子供特有の勢い任せの行動で説明不足な部分に難儀していると懇切丁寧に教えてくれる解説役だ。

 正直ここの子達は知ってて当たり前といった感じで碌に説明もしてくれないので、ケイトにはいろいろ助けられている。

 この集団に早々に馴染めているのもケイトのおかげだろう。

 俺はケイトに手を引かれるがままに一緒に逃げることにした。


「ありがとうケイト君」

「べつに、大したことしてない」


 あらあらそんなツンデレみたいな台詞言っちゃって、世のショタコンが黙っちゃいませんよ?

 まぁ俺はショタコンじゃないから関係ないが。

 ケイトに手を引かれてやってきたのは、住居が密集する区画だ。

 この村は中央に宴会やら集会やらが行われる広場があり、そこから村民の住居が広がり、北側に農場がある。

 ちなみに俺が初めて村に訪れた際通った門は南側だ。

 広大な農地を丸ごと壁で覆っているため、敷地だけならかなりの広さがあり、子供達の遊び場は広場から住居があるエリアとなっている。

 いくら子供の無尽蔵な体力でも農場まで範囲を広げていてはゲームそのものが立ち行かなくなる他、大人達としても税として納める作物を傷つけられてはたまらないので、快く遊び場を設けていることだろう。

 そんな訳で子供の間で暗黙の了解として遊びに使っていい場所とそうじゃ無い場所が明確に分かれている。

 というのを最初は誰も説明してくれず、それを見かねたケイトが教えてくれて以降、知らぬ間に専属の解説役のようなことをしてくれている。

 子供に説明責任どうこう言うつもりはないが、もうちょいどうにかならんもんかね?


「アーサーの奴、もう近くに来たのか」


 そんなことを考えていると衛兵役の子が近くまで来たようだ。

 随分ご立派な名前だな、この世界に岩に刺さった剣があったら彼に抜いて貰おう。

 もちろんこの世界の住人はアーサー王伝説など知らないのでたまたま被っただけだろうけど。

 偶然かはたまた何か目星でもあるのか、アーサーは俺達が隠れている場所までまっすぐ向かってきている。

 そこで俺はケイトの腕を引いてこちらを向かせると、屋根を指差す。

 それだけで意図が通じたのか、ケイトは頷いてから握る手に力を加える。

 俺はそれを確認してから権能を発動し、俺とケイト2人を持ち上げ、屋根の上に場所を移す。

 人間前面に目がある以上、真上は死角になりやすい。

 現に住居の影を調べているアーサーは屋根の上に隠れた俺達に気づく様子はない。

 どうやらたまたま隠れていた場所と探しにきた場所が同じだけだったらしく、誰も隠れていないのがわかるとさっさと別の場所を探しに行った。

 残念だったなアーサー、俺の方が一枚上手だったようだ。

 大人気ない?なにを言う、透明感したり認識阻害を掛けたりしていないだけ手加減しているではないか。

 やろうと思えば空間を捻じ曲げ、そもそも近づけさせないことだってできるのだ。そう考えると十二分に手加減しているだろう。

 さて、アーサーが遠ざかっているのを確認し、俺はそのまま屋根の上で寝そべる。

 今日は天気が良くて、おまけに屋根の上という日差しを浴びるのに最適なポジションにいるため、ぽかぽかして気持ちいい。

 時折涼しい風が頬を撫で、より一層眠気を誘ってくる。

 まるで自然がお昼寝をしろと囁いているような環境に欲望は抑えることができず、そのまま目を瞑ってお昼寝を始める。


「あっおい!こんなところで寝るな、ってもう遅いか...」


 ケイトがそんな俺を起こそうとしたが、そんな声も今の俺には子守唄同然で、握られているケイトの手の温もりを枕代わりに、夢の世界へと旅立った。





「ケイト〜!ユウちゃ〜ん!どこにいるの〜!」

「もう俺達の負けでいいから出てこいよ〜!」

「もうそろそろお家に帰らないと怒られちゃうよ〜!」


 いつの間にやら日が沈み始め、村に夕日の紅衣が被っていた。

 夕日の影になっている場所は、底無しの穴でもあるように暗くなっており、どこまでも吸い込まれてしまいそうな雰囲気を醸し出す。

 どうやらあのまま誰にも見つかることなく眠っていたようで、お昼寝と言うには少々寝過ぎてしまった。

 隣を見るとケイトも日差しの誘惑に抗えなかったのか一緒に眠っている。

 いつの間にか握っていた手は腕枕に変わっており、これも寝過ぎた要因の一つと数えていいだろう。


「ケイト君、起きてください」

「う、う〜ん?やば!?もう日が沈むじゃねぇか!」


 眠り呆けているケイトの体を揺する。

 彼は寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、すでに夕暮れであることに気づき慌てて立ち上がる。


「ほらユウ、降りるぞ」


 慌てていてもお世話は忘れないらしい、俺に手を差し伸べて立たせると、一緒に屋根を降り、今だに俺達を探している子供達の下へ向かった。

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