第6話

 興奮冷めやらる様子で今にも小踊りでもしそうな勢いだったジルとガリルは、俺が声をかけると落ち着きを取り戻して村への歩みを再開した。


「ごめんごめん、ユウの加護があまりに有用だったからついはしゃいじゃった」

「そんなにすごい物なんですか?」

「そりゃそうだよ!」


 まだ少し興奮が残っているのか、ジルは矢継ぎ早に先程見せた加護の使い道を乱列し始めた。

 重い荷物を持ったりはもちろん、使いこなせば農具を操り畑を耕すこともでき、作物の収穫にも大変役立つ。それだけではなく高所での作業にも扱える。

 さらにさらに、武器を持てば透明な剣士が

や弓兵が立ち並ぶ軍勢を操ることだって夢じゃない、などなど数々の使用用途を熱く語ってくれた。

 前半部分に関しては人の手でもできると思うのだが?


「それとそれと!」

「う、うん」

「おいジル、ユウちゃんが引いてるだろ。少し落ち着け」

「あっ、ごめん。興奮しすぎた」


 暴走気味だったジルをガリルが取りなしてくれたおかげでクールダウンできたようだ。

 よくやったガリル!


「それと2人とも、話に夢中で気づいてないかもしれないが、もう村が見えるところまで来てるぞ」

「もうそんなに歩いてたんだ」


 どうやらジルの弁舌に圧倒されているうちに相当な距離を歩いていたようで、村が目と鼻の先にあった。

 ジルお前、どれだけ話していたんだ....






「ようガリル、ジル。お帰り」

「おう、今帰った」

「ただいま〜」


 村は大人2人分の高さがある木製の壁で覆われており、壁より高い位置に物見櫓が鎮座している。

 2人を真っ先に見つけて出迎えた男は、櫓からなにやら合図を送ると両開きの扉が開いて俺達を中に迎え入れる。


「よっガリル、ジル坊。怪我はないようだな」

「今日の門番はハルザか、今日はサボってないようだな?」

「昨日長老にこっ酷く叱られたからな。さすがに今日は真面目にやんねぇと、2日間飯抜きカカシの刑にされる」

「最初っから真面目にやれば良いのに」

「大人には色々あんの。まあ?まだガキのジル坊にはわかんないかもしれないがな?」

「良いかジル、これが悪い大人の見本だ」

「ところで、その子誰?」


 親しげに会話を始めたので大人しくしていたら、唐突に矛先がこちらに向いた。

 目線がちょいちょいこちらを向いていたので気付いてはいたのだろうが、話の振り方に脈絡がなさすぎませんかね?

 まぁ些細なことを気にしていても仕方ないので、一歩前に出て挨拶する。


「初めまして、私の名前はユウ。1人で彷徨っていたところ、ガリルさんとジルさんに保護してもらいました」

「ユウ、僕のことはジルかお兄ちゃんって呼んで良いからね」

「じゃあジルで」

「....うん、ユウがそう呼びたいなら」


 なぜそこで残念そうな顔をする?

 自分がお兄ちゃんと呼ばれるならまだしも、俺がお兄ちゃんと言ったところで俺自身は微塵も楽しくないので言わないぞ。

 そんなやりとりを見ていたガリルは苦笑いを浮かべてから、ハルザと呼んだ男に説明をしていた。


「どうもこの子、親を亡くしてしまったみたいでな」

「つうことは孤児か?」

「ユウちゃんも1人だって言ってたからおそらく」

「どうすんだ?言っておくが俺の所に迎え入れる余裕はないぞ?お前だって狩と畑の兼用で面倒見る余裕ないんじゃないか?」

「ああ、だがジルの奴が引き取る気満々だったんでな。良い機会だしユウはジルに世話させるつもりだ」

「まだガキのジル坊に子供の面倒が見れるかもんかねぇ?」

「いつまでもガキ扱いすんな、ユウは僕が面倒見るって決めたんだ」

「そうか、精々頑張んな。俺は門番の仕事に戻る、長老に見つかったらサボってるって言われかねないからな」


 ハルザはぶっきらぼうにそう言うと開けっ放しだった門を閉じに向かった。


「俺達も行くか、女房にも説明しなきゃならんからな。はぁ憂鬱だなぁ」

「奥さん?」

「でも母さんなら大丈夫じゃない?前々から娘が欲しいって言ってたから」

「そこは心配してない、むしろ大歓迎するだろうな」

「じゃあなにがそんなに憂鬱なんだよ親父?」

「ユウを紹介した後が大変なんだよ」

「どういうこと?」

「忘れたのか?ジャトは無類の可愛い物好きだぞ。ユウなんて見せてみろ、一日中離さなくなってもおかしくない」

「あぁ〜、そういえばそうだった」

「それを諌めるのは俺なんだぞ、憂鬱にもなる」


 ガリルはもう一度溜息を吐くととぼとぼ歩く。

 その様子を見ているとなんだか不安になってきた。

 

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