第4話
「こういう時にチート代表のアイテムボックスとか収納魔法とかあればいいんだけど。権能で再現できないかな?」
異空間を生み出してみる。
「後はこの空間を拡張してっと」
俺なりにアイテムボックスを再現してみた。
といってもただ単に拡大した異空間を作り出しただけだが。
「さてと、この空間にこの山を入れれば証拠隠滅完了っと」
異空間の入り口を操り、山を飲み込む感じで収納する。
跡形も無くなったので権能を解除してみたところ—
「こうなるのね....」
一度消えた死骸の山が異空間の入り口があった場所から噴水のように溢れ出し、あちこちに撒き散らされてしまった。
「うむ、収納しておくには権能を維持しないとダメなのね」
さすがに権能を一日中使い続けるのは無理だ。
最小限の省エネ可動でも体の回復力より消耗の方が勝るため、解除するたびに中身を撒き散らすはめになる。
「この死骸をどう処理したものか」
権能を再展開して散らばった死骸をもう一度一纏めにする。
既存の世界、理を書き換える力なのだからやろうと思えばなんでもできるのだろう。
「シンプルに焼却処分でもするか?」
死骸の山に火を放つ。
放った火は掌サイズの小さなものだったが、死骸に触れた瞬間瞬く間に燃え広がり、あっという間に全体を焼き尽くす。
辺りを照らす炎は権能で生み出したからか、至近距離で眺めているにも関わらず熱さを感じなかった。
そうして残ったのは炭となった鳥の山。
「後は埋めてしまえば完了かな。...流石にこの量を一箇所に埋めるのはマズイか?」
土に還せば大地の栄養になるかと思ったが、山積みの炭を一箇所に埋めたら栄養過多になって何かしらの環境問題になるかもしれない。
そもそも土に還して大丈夫なのかすらわからないが、それ以外の処理方法を思い浮かばないので仕方がない。
もし何か問題が起きたら見て見ぬフリでもしておこう。
無責任?それは俺をこの世界に転生させた神様に言ってくれ。
邪神に文句を言う覚悟があるのならな。
「しばらく歩いて一定間隔で埋めていくか」
死骸の山から炭の山になった元鳥を権能で黒い球体状に圧縮し、手元に引き寄せる。
そして邪神の使徒がジャージを着て黒水晶を片手に歩くという意味のわからない状況が出来上がった。
「なんか見栄え悪いなぁ〜」
しかも手にする物が死骸の山というのが邪神の使徒らしさを際立てている。
そんな意味不明な状況でも様になってしまう見た目の良さがまたなんとも言えない。
「まぁ、考えてもしょうがない。今はとりあえず行動あるのみ。せめて人間の文明圏まで進んで安定した環境と自堕落な生活を確保しなければ」
思えば前世では働いてばかりで碌に自分の時間も作れなかったんだ、異世界でチートを生かして楽に暮らせる環境を目指すのもありかもしれない。
それにこの体は成人しているそうなのでお酒も飲める。
異世界のお酒、まだ見ぬ美酒、そして酒にあう料理。
「やべ、考えただけで涎が」
あんな死骸の山を見た後だというのに、我ながらメンタルが強いというか、即物的というか。
口の中がお酒の気分になった俺は、心なしか動かす足が速くなったような気がする。
そうしてしばらくお酒のことに思考の半分を奪われながら、軽快な足取りで町を目指すのであった。
もちろん死骸を少しずつ埋めていきながら。
〜しばらく後〜
いったいどれだけ歩いただろうか?
軽快に見えた足取りだったが身長が低いせいで思ったより進まない。
すでに辺りは暗闇に包まれていた。
炭の山は処分し終わったのだが、その後もなんとなく歩き続けていたら町にたどり着く前に日が暮れてしまった。
少し呑気に行動しすぎた。
幸い街道のようなものを見つけたため道なりに進んでいる。
この体の視力なら夜でも十分行動できるだけの視界を保てているが、それでも昼間より視界が悪いことに変わりない。
どこかで一休みしたいのだが...
「おや?」
休める場所はないかと思いながら足を動かしていると、道の脇に簡易的な小屋のような物が見えてきた。
サイズは田舎にある木製で屋根付きのバス停くらい。
「灯りがついてるってことは、誰かいるのか?」
僅かだが小屋の隙間から灯りが漏れており、近づくにつれて人の声も聞こえてくる。
ようやく第一村人、もとい第一異世界人と遭遇できそうだ。
願わくば、旅のお供みたく襲い掛かられないことを祈るばかりだ。
「すみませ〜ん、誰かいますか〜」
小屋に辿り着いた俺は外から声をかける。
異世界の人間に言葉が通じるのかとも考えたが、近づいた時に聞こえた声が何を話しているか理解できたため普通に話しかけて大丈夫だろうと判断した。
これも神様の言っていた高いあれこれかもしれない。
「うん?なんでこんな時間にこんな所で子供が?」
扉を開けて出てきたのは、筋肉質な中年のおっさんだった。
髪は手入れされていないのか、くすんだ金髪がボサボサなまま放置されており、髭も伸びたままになっていて、少々小汚い印象を受ける。
「どうしたの?えっ、子供?なんでこんな所に?」
そして後から出てきたのは金髪の青年で、最初に出てきた中年の男の面影を感じるところから、親子だと思われる。
青年の方はそれなりに身なりを気にしているのか、髪は最低限だが整えられている。
「こんばんは、この辺で一休みできる場所はありませんか?」
「この辺りで休める場所なんてこの小屋くらいだな。それより嬢ちゃん、なんでこんな村から離れた所にいるんだ?親御さんはいないのか?」
どうやら俺を親元から離れてしまった子供と思ったのだろう。存在しない親の姿を中年の男が探し始める。
まぁこの見た目では仕方あるまい。
「いえ、親はいません。私1人です」
「おいおい、まじかよ。こんな小さな子供を...」
「親父、とりあえず中の入れてあげたら?」
「そうだな、嬢ちゃん入りな。この時間は冷えるだろ、スープでも飲んで体を温めなさい」
「いいんですか?」
「いいも何も、こんな所に子供1人残してらんないだろ」
「そうそう、それにこの小屋は村と森の間にある休憩所で、僕達以外も自由に使っていいものだから」
青年はそういうと俺の手を取って小屋の中へと招き入れた。
「そこ段差があるから気をつけて」
「ありがとうございます」
言われなくともこの目はしっかり見えているので躓く心配はないのだが、せっかくの気遣いを無碍にする必要もあるまい。
お礼を言って中へと入る。
小屋の中は想像通りというか外観通りというか、有体に言えば狭かった。
幸い大人ほどは身長がない青年と低身長の俺とでギリギリ3人寝そべるだけのスペースはあるが、これが大人3人となれば全員が横になるのは体操選手並みに体が柔らかくなければ難しいだろう。
「待ってろ、今スープを温め直すからな」
中年のおっさんが扉を閉めると、端の方に置いてあったババックパックから鍋と筒状の水筒を取り出した。
おっさんが物を用意している間に、青年は小屋の中央の床を取り外していた。
そこは一段低くなっており、底の方に砂が溜まっていて周囲を石材か何かで覆っていた。
少々趣は違うが囲炉裏のような物だろうか?
「危ないから手を突っ込んじゃダメだよ」
「はい」
俺が興味津々で覗いていたら青年に注意されてしまった。
そうこうしているうちにおっさんが水筒の中身を注いだ鍋と、何やら赤色の石を持ってやってきた。
おっさんは赤い石を囲炉裏(仮)に放り込むと、ものの数秒で石を中心に砂が赤熱し始める。
その上に鍋を置き、ゆっくりかき混ぜながらスープを温める。
立ちこめるスープの香りと、暖かな室内で気が緩んだのか、お腹の虫が鳴る。
「あっ」
「待ってる間に果物でもどう?」
「い、いただきます」
お腹の虫を聞かれたのか、青年が自分のバックパックから布に包まれたドライフルーツを差し出す。
俺は恥ずかしさを押し殺しながら、空腹に抗えず素直に受け取る。
何を乾燥させた物かわからないが、とりあえず一口食べてみる。
良い子は知らない人から貰った物を食べないように。
「おぉ、甘い」
「もっとあるから気に入ったならどうぞ」
「ありがとう」
口の中に広がるヨーグルトのような濃厚な甘味、それでいて尾を引かないすっきりとした後味。
なにこれ?上手いんだけど。
俺はスープが温まるまで追加で貰った謎ドライフルーツをちびちび食べて過ごした。
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