第3話

 地面を軽く蹴ると体は浮き上がり、どんどん上昇していく。

 ある程度の高さまでくると空中で止まり、辺りを見渡す。

 今、俺は権能で重力を操り空を飛んでいる。

 地上からでは建物らしきものが見えなかったため、高所から探そうと思い至ったのだ。

 権能の負担は大きいが、自分1人だけを対象にするのであれば、小さな体の肌を覆うように権能を展開することで消耗を抑えることができる。

 そして飛んでみた結果わかったのは、最寄の町らしき場所がすごく遠いと言うことだ。


「うっへぇ〜、遠すぎぃ」


 伸ばした小指の先端にちょこんと乗るサイズが最寄の町だ。

 それ以外の人口建築物は見えないので、もっとも近い町でもかなりの距離がある。


「よくあんなの見つけられたな。もしかしてこれが高い身体能力とやらだろうか?」


 権能が凄すぎて7割くらい忘れていたが、この体の性能もチート級なのだった。

 前世の俺なら見逃していたね。


「距離は遠いが、見つかっただけマシと思うべきか」


 何はともあれ、早々に町を見つけられたのはいいことだ。

 下手したら反対方向に進んで数日間を無駄にしていたかもしれない。


「さっそく向かってみますかね」


 町を目指して移動を開始しする。

 あまりスピードを出していないのだが、遮る物のない空では吹く風が強く、ジャージ姿なのもあって肌寒く感じる。

 流石にこのまま体温を奪われ続けるのはよろしくないので、権能で風を遮断する。

 こちらに放り込まれた時とは段違いの快適な空の旅をしていると、地上から鳥が羽ばたいてきた。

 どうやら俺の方に飛んで来ているらしく、少しずつ近づいて来ると、並走して飛び始める。

 見た目はハゲワシにのような厳つい外見だが、羽の先端に鈍く輝く鋭利な刃のような物が見えるため、地球には存在しない生き物だろう。


「こんにちは?」


 快適な空の旅に仲間ができたので挨拶をしてみた。

 彼または彼女は照れ屋さんなのか、はたまた寡黙なのか返事はない。

 特に何かをしてくるわけでもないのでそのまま並走しながら町を目指す。


「うん?なんか増えてね?」


 ふと異なる気配を感じて並走している鳥の方を向くともう一羽増えていた。

 だが、一羽増えたからと言って何かして来るわけでもなく、もちろん挨拶をしてくれることもなくただ並走するのみ。

 こいつらは何がしたいんだ?

 疑問は残るが、何もしないのなら好きにさせよう。

 俺は気にする事なく町へ向けて飛び続ける。

 二羽の寡黙なお供を連れて。


〜数十分後〜


 バサバサと翼の音が絶えず鳴り響く。

 あれから旅のお供は増え続け、今では視界を埋め尽くす鳥、鳥、鳥。

 徐々に増えていった鳥達は、乱れる事のない見事なまでの群体飛行を見せると、俺を囲い込んでしまい、視界不良と騒音被害をもたらしてくれた。

 はっきり言ってすっごい邪魔。

 前も後ろも左右上下どこを見ても鳥だらけ、町に向けて真っ直ぐ飛んでいるつもりだが、こうも視界を遮られると自信がなくなってくる。

 さらにとめどなく流れる翼のメロディがライブ会場並の大音量で鼓膜を刺激してくる始末。

 さすがにこうも邪魔されると気にしない方が無理なので、もうそろそろ追い払おう。

 俺がそう考えていると、何かを感じ取ったのか、鳥達が一斉に鳴き始める。


「な、何なの君ら!?さっきまで鳴き声一つ漏らさなかったのに急に鳴き出して!?しかもうるさい!!」


 何十羽といる鳥が一斉に鳴き出し、尚且つその中心にいればうるさいのは必然。

 爆音の羽ばたきの中から、高性能なこの体が四方から襲い来る風切り音を聞き取った。

 咄嗟に空間を遮断し、進行を阻むシールドを展開する。

 すれ違いざまに翼の先端で攻撃を仕掛けて来る鳥達は、その後も入れ替わり立ち替わりで絶え間ない猛攻を仕掛けて来る。

 幸いシールドを貫通できるほどの攻撃ではないため落ち着いていられる。


「なんで攻撃されてんの?俺、何かした?」


 確かに追い払おうとは思ったけど、まだ何もしてないんだが?

 だが、こうも敵対心剥き出しに襲われてはこちらも黙ってはいられない。

 当初の予定では追い払うだけのつもりだったが、ここは徹底的にお返しをするべきだろう。

 侵食世界を広げて鳥達を包み、逃がさないように外側にシールドを張る。

 そして侵食世界の内部にバチバチと電撃が弾ける音が響きだす。


「さて、クソ鳥ども。襲ってきたのはそっちなんだから反撃しても文句は言わないよな?」


 異変に気づいた何羽かが俺から離れようとしたが、シールドに阻まれて逃げることができずに困惑している。

 そんなことはお構いなしに電撃の威力を上げていき、やがて視界を瞬い閃光が埋め尽くす。


「焼き鳥にしてやるよ!!」


 閃光と共に鳥の羽ばたきを消し飛ばす轟音が響き、視界が戻った頃には辛うじて原型を留めた真っ黒な鳥の死骸がシールドの底に山と積まれていた。

 自分に張ったシールドのおかげか焦げ臭さなどは感じないのだが、今の今まで飛んでいた鳥が黒焦げ姿で山となっている様はなかなかくるものがある。

 とりあえず一旦地上に降りてこの死骸の山をどう処理するか考えよう。


「どうしたもんか....」


 ただでさえ鳥の死骸を処理したことがないというのに、自分の身長を越える山となった死骸の処理方法なんて知るはずもなく、しばらく頭を悩ませることとなった。

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