9:ケインをウィップ
「ウィップはもうオレの友達でもあるんだ!勝手に捨てるな!」
「っへ」
「だって、ラティが紹介してくれたんだ。もうウィップもオレも友達でいいだろ?オレの友達を勝手に捨てようとするなよ」
なんという事でしょう!いつの間にか、ケインまでウィップの友達になっていたようです。僕の涙はもう完全に止まっていました。
「だから、ラティはこれからも毎日ウィップに本当の気持ちを書いて報告すること」
「……いいの?」
「誰がダメだって言ったよ。でも、その代わりオレもウィップの友達なんだから、毎日オレにもウィップを見せろよな!」
「えぇっ!」
ケインからの思ってもみない提案に、僕は心底ビックリしてしまいました。だって、そんな事をしたら僕の思っている事が、これからもケインに全部バレてしまいます。それはちょっと恥ずかしいです。
「なんだよ、オレはラティの友達じゃないってのか?」
「と、友達だよ!ケインは僕の友達!僕にはウィップとケインしか居ないの!」
「……じゃあ、友達にウソ吐くなよ?」
「うそ?」
ケインの「ウソ」という言葉に僕は何の事だろうと首を傾げました。すると、ケインはもう一度パラパラとウィップを捲りながら言いました。
「オレに見られるのが恥ずかしいからって、ウソを書くなって事。ラティの思ったことをそのまま書くんだ。……これまでみたいにな」
そう、どこか機嫌良さそうに口にするケインに、僕は少しだけ迷いました。確かに、僕にとってのウィップは、何でも思った事を伝い合える友達です。そして、友達ってそういうモノだと思っています。ウソをついたり、隠し事をする相手は友達なんて言えません。でも、それだと。
「ちょっと……はずかしい」
「なんでだよ」
口元にニヤリと、いたずらっぽい笑みを浮かべるケインに、僕は再び顔が微かに赤らむのを感じました。
だって、きっと僕の事です。
これからウィップに報告する事も、殆どケインの事ばかりだと思います。だって、僕にはケインしか友達が居ませんし、それより何より、僕はケインが大好きだからです。
「僕、ケインの事ばっかり書くと思うから」
「いいじゃん、別に。なんで恥ずかしいのか言ってみろよ」
「……なんでだろう」
ずいと顔を近付けて尋ねてくるケインに、僕もここにきて「なんでだろう」と首を傾げてしまいました。ウィップには何を話しても恥ずかしくありません。日記帳だからなのでしょうか。でも、ケインもウィップも僕の大切な友達である事には変わりありません。どこか違う所があるでしょうか。
「こ、声に出すから?」
「わかった。声に出して読むのはやめる。静かに読むよ。だったらいいだろ?」
「……ん。だったら、いいよ」
あぁ、確かにそうかもしれません。ウィップと違って、ケインは「声」に出して中身を読んできたから恥ずかしかったのかも。
「よし、決まりな。じゃあ、これから俺は毎日、この時間にラティの部屋に来るから」
「っいいの!?」
「ああ、俺もウィップと話さないといけないからな」
「わーい!」
なんという事でしょう!ケインがこれからは夕食の後にも部屋に来てくれる事になりました。それに理由が「ウィップと話す為」だって。ケインも、ウィップの事を「本当の友達」のように扱ってくれているのが、僕には嬉しくて堪りませんでした。
「ラティ、絶対にウィップにウソを書くなよ」
「うん!わかった!」
ケインに出会って一カ月目の記念日。
それは僕にとって、とても悲しくて恥ずかしい、でもとても嬉しくて素敵な日となりました。あぁ、ウィップに報告を追加しないと!
「ラティ、お前って泣き虫だな」
「へへ、ヘンかな?」
「ん-、ちょっと変だけど……まぁ」
僕は嬉しそうな顔で僕の目元を撫でてくるケインに、なんだか嬉しくなってニコニコと笑ってしまいました。ケインが自分から僕に触ってくれたのは、これが初めての事でした。
「でも、オレの前でだったら泣いてもいいぜ。変なラティも、もう慣れたからな」
「わかった!」
この日の僕は嬉しくて嬉しくて。ケインが部屋から出て行った後は、ウィップを抱いてケインとの思い出を語り合いました。もちろん、復習なんて少しもしていません。勉強なんてしている場合ではなかったのです。
「ケイン……けいん、ケイン」
だから、この時の僕は知りません。まさか明日のウィップへの報告に「ムチ」という言葉がたくさん使われるなんて。
まったく、知る由もありませんでした。
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