第18話 ピントがずれきってるまんまの僕なら

うどんの売店に長い列ができていた。

日本シリーズの時期は、広島といえど夜になると冷える。

しかしこの季節の夕焼けの美しさは格別だった。

試合中であろうと、売店に行く時、手洗いに行く時、球場コンコースに出るたびについつい西の空を見てしまう。

そう言えば東にいる髙橋美佳は今何をしているのだろうか。


その年、僕と影山の大好きなプロ野球チームはリーグ優勝し、日本シリーズに進出した。

僕が赤黒く燃える西の空を見届けて内野2階席に戻ると影山が待っていた。


「結構ちゃんと観れるね」

「おん。こん席とれたんファインプレーじゃ」


内定辞退の手紙はとうに送った。

ついこの前内定式も終わった。

あとは入社式を待つばかりだ。



僕は、この街で働く。



「ほんまにクラシコとかSSSじゃのうて良かったん?」

「おん。広島で、あの会社で、あの人たちと接しとったらな、」

「うん」

「俺がもって生まれた醜い心とかが綺麗になりよる気がするんよ」

「え、修行?」

影山が笑いながらそう言う。


就職活動中の僕がこの会社をどの程度志望していたのかは結局判らない。

だが第10志望に入っていようが圏外だろうがどうでもいいのだ。


「そう言ってもええ。

俺は人と真っすぐ接したりできん。いつもどっかで粗探しをしよる」

「久原は冷静にものを見とるだけやないん」

「ええんよ。その古い自分を捨てる」

「後悔せん?」

「それも抱えて生きる」

「……」

「東京へはちょくちょく遊び行くけ」

「久原さ、」

「ん?」

「内定式で可愛い子いた?」

「なんじゃお前」




-完-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネクタイをしめたい ハヤシケイスケ @KeisukeHayashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ