第16話 進む道は違えど俺達は

「何で野球観よるん俺ら」

「久原と私の共通の遊び場なんて球場くらいじゃろ」

「何で二軍戦なん」

「カープちゃん今月は関西で試合ないけ」

「不気味なんじゃけど」

「久原が迷走しとってじゃからお姉さんが悩み聞いたげようと思ったんに不気味って何ね」

「迷走?」

「てかしっかりユニまで着よってから張り切っとるくせに」

うるせえなタコ殴るぞてか何でお前は誘ってきたくせに着てねえんだよ。

「みんな心配しょーるよ」

「みんなってどの範囲じゃ」

「鹿島と髙山と紀藤さん」

「紀藤さんもかいね」

「まだ悩みよるんじゃろ?」


僕は影山に誘われ、野球観戦に来ていた。

と言っても二軍の試合だが。

この球場には、好きな選手が二軍にいる者か、未来の一軍の主力選手を今のうちに見ておきたい熱心なファンか、暇人か、僕たちのような意味不明な大学生しかいない。

そう言えばあの選手が今二軍にいるなと思い、家のタンスから球団公式の背番号入りレプリカユニフォームを引っ張り出して着て来た。



試合の結果は覚えていない。

記憶喪失などではなく、覚えておく必要もない。

二軍の試合とはそういうものだ。


試合後に市街地に出て、少し早い夕飯を影山と共にした。



「で、何がしたいん」

「解りゃ苦労せん」

向かいに座ってはいるが、僕は影山と目を合わせたくない。


「私は、人から感謝されたい。苦しい境遇の人を救いたい。そういう仕事がしたい」


影山は利他の精神だ。

生活の安定やホワイト企業に興味は無い。

人に感謝されることが生き甲斐。

影山はそういう人間だった。

自分の希望を叶えられそうな職場を必死になって吟味している僕の心は、幼稚な欲望か。


「久原は?」

影山が問う。

余計なお世話なのだ。

この女はいつもうるさい。


「……っていっても、何でもええんじゃけど」

僕の答えを待たず、影山は言う。


「ん?」

「どこ行っても久原は久原じゃん」

僕は顔を上げた。

影山は真っすぐな目で僕を見ている。

今日初めてちゃんと影山の顔を見た気がする。


「ただ、早くはっきりしんちゃい。

鹿島も髙山も、もっとシャキッとしよる久原が好きやけ」

「…………」


何も、答えられなかった。

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