第11話 僕を悩ませる将来は何故今決めるの

固いアイスを食べながら、新幹線に乗っていた。

糖分を頭に送りながら、考えていた。

集中するためにイヤホンは鞄に仕舞った。



株式会社SSS。

東京に位置するSIer。

金を稼ぐことや社会的地位を得ることを考えれば最も正解に近い選択肢。

それに、入社すれば憧れの東京に住むこともできる。その時は髙橋美佳も一緒だ。

影山と鹿島も付いてきてしまうが。

あと忘れてはいけないデメリットが、内定者懇親会に出席した社員が自ら面白くないと断言する社風。

激化する出世争いと、殺伐とした空気。


株式会社クラシコ。

大阪に位置する文具メーカー。

住み慣れた大阪。東京ほどではないが何でもある大阪。

はっきり言ってブラック企業だが、あの会社なら自分でもそこそこのポストに就ける可能性がある。

仕事も面白いに違いなかった。

しかし、"好きな会社"で消耗してすっかり顔つきの変わってしまった紀藤先輩と与田先輩の存在がチラつく。

成功や自己実現と引き換えに失うものは。



という具合に双方の会社はそれぞれに魅力的であったし、それぞれに欠陥があった。

この物語もかなり長くなってきたが僕はもはや自分が将来に何を希望しているのかを見失っていた。

両方の会社に入社する2通りのパラレルワールドを体験してから本決定をしてはいけないのか。


そもそも、この2社で納得して良いのか。

本当の第一志望はどこだった?

この2社は、第十志望の中にでも入っていたのか?



さらに、僕にはもう1社、検討しなければいけない会社がある。


鯉城電子株式会社。

僕の故郷、広島に位置するSIer。

退職者による口コミが集まるサイト"じょばない"によると月あたり残業時間は30時間程度。

SSSほどではないだろうが、福利厚生が手厚いと県内の大学生からは人気だ。

その会社の内定者懇親会に参加するために、僕は広島に帰ってきた。


前述の2社の存在が吹き飛ぶような魅力を見せてくれるのか。

引き続き接戦になるのか。



僕を乗せた新幹線がスタジアムの横を通り過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る