第12話 書けなくなって気づいた、大切なこと……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは、ほぼほぼ関係ありませんので、まあ、あんまり深くは気にしないで下さい。
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それでも、ネット小説のいいところは、読者から直接、コメントをもらえるところだ。作者と読者が繋がれる良さがある。
モチベーションは保てていないが、それでも、読者の声をモチベーションに変えようと、おれは自分を奮い立たせる。
『第一部完といった感じなので是非続きが読みたいです。城に残った子達のその後が気になります。闇落ちしそうな子もいますし…ハーレム展開が苦手なので最初にカップルができたのはよかったです。数多涌き出るライバルをリコちゃんがちぎっては投げして欲しい』
こういう感想をもらっておいて、中途半端はよくないんじゃないか。
そんな思いで、続きをひねり出すように、キーボードに向かって必死で、動かない指を無理やりにでも動かしていく。
そのタイミングで、『なったろう小説コンテスト』に応募していた短編『気の弱い元カレの未練旅断ち ~オレが前を向くには、あいつにぶちまけるしかない~』が、コンテスト運営による感想サービスに当選したらしい。
『北陸新幹線の車窓から始まる静かな動き出しが、どこか切なげでグッと引き込まれてしまいました。
2泊3日の一人旅は元恋人を回顧しながらの道中だったので、登場人物が二人いたように感じ、飽きをせずに読むことが出来ます。また、だんだんと輪郭が見えてくる彼の気持ちが一体どこにたどり着くのかという考察をして、読むことも出来ますね。まるで旅番組のように風景が描写されていくので、実際に目で見たような感覚になり、登場人物ともリンクしていきます。ラストは切ないながらも、彼の気持ちに寄り添いたくなりました。今後の活動を応援しております』
最後はちょっと、就活のお祈りメールのような匂いがするものの、こんなに素晴らしい感想を頂けたのだ。
ほとんど失われつつあったモチベーションが、少しだけ復活した。
さらには、その感想の翌日、メアドに待っていた「評価シート」が届いていた。
ずっと知りたかった自分自身の客観的な評価が、ここに、ある。
たかが一次通過、二次落選の作品とはいえ、それを読んだのは出版関係のプロの人たちだ。
どんな意見でも受け止め、おれ自身の糧にするしかない。
シートは5角形のレーダーチャートと、選考講評があった。イメージしていたよりも、選考講評の文字数は多く、長所を誉め、短所を伸ばすようにアドバイスがもらえていた。
おれは、文章力がまだまだ足りず、その一方で、構成力には大きな可能性があるらしい。こんなおれにも、小説を書く武器となる長所があったのだ。
足りないものを埋めるためにも、この小説の続きを書こうと、アイデアを考え、続きを必死に打ち込んでいく。
そして、ある程度、書き溜められたところで、続きを『小説家になったろう』で公開していった。
だが、やはり、PVもポイントも、伸びない。
……おもしろくないんだろうか。
戻り切っていないモチベーションの中、一度、自分を疑うと、キーボードを叩く指は、どんどんと固くなっていく。
それでもなんとか、続きを更新していくのだが……。
次は戦闘シーンだというところで、完全に指が止まってしまった。
実は、評価シートでは、特に戦闘シーンの文章力に課題がある、となっていたのだ……。
その日から、また。
おれは、一文字も書けなくなってしまったのだった。
春の暖かさのせいだろうか。
去年もこの時期に書けなくなってしまったのだ。
そんなことを思いながら、戻ってこないモチベーションについて、考えないようにして過ごす日々。ただ、『小説家になったろう』から離れることはなく、読専として読み続けることは止めない。
イベントに誘ってくれた友人と京都へ遊びに行ったり、京都ですきやきを食べたりして、それなのに貴重な祇園祭はスルーして、ブックオフで立ち読みをするなどと、おかしな時間を過ごし。
「……もう書かないのか? あんなに書くの、好きだったのに?」
ふと。そう、問われた瞬間。
おれは、書きたいものを書いていたのか、書いてほしいと思われたものを書いていたのか、自分自身の創作活動に疑問を持った。
いつからだ?
どうして、こんな感じになった?
おれは自分のことを思い返す。
そう、『ボインの伝説』だ。あれは、間違いなく、夢中になって書きたいものを書いていたはず。
でも、書きたいものだからと、書けるからと、そこでランキングにこだわって、無理矢理、1日に何話も更新して……。
そうして、燃え尽き、モチベーションを失ってから、おれは……。
ずっと、ランキングにこだわってる? 書きたいものではなく、ランキングで上位に入れるものを?
なぜだ?
……書きたいものを書き切って、それでも入れなかったランキング。
自分の書きたいものを書いても、そこに到達できないという厳しい現実。
……ああ、そういう、ことか。
書けなくなって、エタらせて。
研究して、ランキングを狙って。
それを達成しても、それでもモチベーションは保てず。
おれは、今、書きたいものを書いてない。趣味だったはずの小説の執筆。それなのに好きなものを書いていないという事実。
そのことに気づいてしまったのだった……。
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