第6話 それでもポイントは、作者を支え続けているのだ……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは、ほぼほぼ関係ありませんので、まあ、あんまり深くは気にしないで下さい。
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ネット小説が一文字も書けなくなったおれは、そのまま『小説家になったろう』で読専へと転向した。
そうして、ひたすら読んだ。とにかく読み漁った。
ベッドの上でも。食事中も。通勤電車の中も。昼休みも。仕事中……はさすがに我慢したものの、トイレの中でもタブレットを開いてはネット小説を読んだのだ。
そんな感じで読専としての日々は、およそ、半年が過ぎていった。
2021年8月。
ふと気になって、『なったろうコン』のWEBサイトをチェックする。
一次選考は8月上旬となっていた。
連絡がくるとか、そういうのがよくわからなかったので、上旬の最後となる10日に、問い合わせを送り、一次選考がいつなのかを聞いた。
13日ということだったので、「中旬じゃん」と思いながらも、楽しみに待った。
応募作品の中で、『ボイ伝』のポイントはトップ20に入っていた。
そして、2021年8月13日。
「……おお、通過しとる」
喜びが湧いてくる。『ボイ伝』は一次選考を通過したのだ。
気持ちが上向きになってくる。現金なものだ。
応募総数14271作品の中から、1841作品、全体の約13%に入ったのだ。本当に嬉しかった。
しかし、2021年9月15日。
あっさりと夢は破れる。
1841作品の中から、132作品に『ボイ伝』は残れなかった。二次選考は通過できなかったのだ。
「あぁ~、落ちたんだ~………………」
何度見直しても、『ボイ伝』はそこに載っていない。何度、見ても、だ。
「……ポイントに関係なく選考、か。確かに5万ポイント超えで、二次通過もできないんじゃ、ポイントとか関係ねーか」
ふぅ、とため息が出る。
「やっぱ、内容がナイんだろうな。ボインだけに……」
気分は世界一深いとされるマリアナ海溝の底まで沈んでいくような気がした。
必死で書き上げ、そして、燃え尽き、さらにはコンテストも落選。
素人作家は、所詮は素人。
筆力不足で当たり前。
たかが趣味なら……てきとーに書けばいいのに、まだおれは指が動かない。
「はは、おれ、書くのって、趣味じゃなかったんかな……」
少年の頃。
小説家になりたいと思った。
でも、成長するにつれて、なれるのだろうか、なれるのはごく一部の人だけなんじゃないかと言い訳して、いつしかあきらめた、夢、だった。
野球選手になりたいとか、サッカー選手になりたいとかと同じで、はるかな、夢。
大人になって。
普通に仕事で収入を得ていて、生活ができて。
だから、趣味なんだって思って。
それが予想外に高いポイントをもらえたもんだから、調子に乗ってしまって。
おれも、なれるんじゃないか。本当に小説家になれるのかもしれない、と。
自分に期待してしまって。
……今、どこか、せつなく、苦しい気持ちがある。
「あれだけ必死になって書いても、ダメなものはダメ、か……」
ただ、ただ、空しかった。心の中が空っぽで、何も入ってこない。もちろん、涙も出ない。
ノパソの前に座ったまま、全身の力が抜けていくのを感じた。
2021年9月21日。
今日も、いつものように『小説家になったろう』にログインして、ブクマの更新を確認して続きを読もうとホームを開く。
「あれ……?」
左上に、『感想がありますよー』の通知が。今は何も書いていないおれに感想が届くというのは、いったい、何なんだろうか……。
「感想……?」
ほんの少し、手が震えながら、クリックする。
それは『ボイ伝』への感想だった。
『面白かった』
短い、感想。一言、だけ。
でも、その短い感想に。
なぜか本気で泣けた。
「……ははは。もう完結して、半年以上、経ってんじゃん。今頃感想とか、マジ、ウケるわー」
口から出るのは強がりだと自分でもわかっていた。
強がりだと自分でも思いながら、誰も聞いてないのに口にしていた。
でも、どうしても涙が止まらない。ノパソの画面が少し見にくい。
マウスをゆっくり動かし、感想をくれた人の名前をクリックする。
その人の自分ページが開き、すぐにブックマークが見えた。
そこには『ボイ伝』があった。
「ブクマしてくれてんじゃん……完結してんだからいらねぇだろ……」
さらにクリックする。評価のところだ。
その人は『ボイ伝』に星を5つ、入れてくれていた。
「ブクマと星5で最高評価ポイントくれてるって、ブルジョワか。マジで、今さら、なんなんだろうなぁ……」
その、なんとも言えない、星の輝きに。
気が済むまで泣いて。
それからおれは。
すっかりほこりをかぶってしまった、アイデアノートを引っ張り出す。
「これ、残して死んだら、間違いなく黒歴史ノートに確定だよな……」
ぽきり、ぽきり、と右手で左手を、左手で右手を潰すようにして、指の音を鳴らしてみる。
……どうやら、この指は、再び動き出そうとしているようだった。
「おれの戦いはこれからだ! なったろう、で最強になってやる!」
新たな決意とともに、新作への挑戦が今、始まろうとしていた。
どこかの、誰かの、ポイントに支えられて……。
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