第5話 ラノベ最高峰を読んで、井の中の……それを知ってしまうともう……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは、ほぼほぼ関係ありませんので、まあ、あんまり深くは気にしないで下さい。
特に、どことなく聞いたことがあるような作品名が出てきたとしても、スルーして下さいね。
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2021年1月31日。
「くぅ……残念ながら、1月中に完結させられず、か。表紙も……頑張ったけど、届かなかったんだな。悔しいぜ……2月は仕事が鬼だし……」
ランキングは月間最高11位、日間最高6位。月間は10位で表紙のジャンル別ランキング、日間は5位でランキングまとめページなので、どちらも惜しくも届かず。しかも、1月31日は月間12位だった。
それに、2月は年度末が近く、仕事の忙しさは天元突破しつつあった。
「さすがに、2話更新とか、4話更新はもう無理か……」
だが。
それでも、これだけのポイントをもらっておいて、エタらせるなんてことは絶対にできない。そんな使命感をおれは感じていた。
「できる範囲で、このまま書き続けるしかない……」
そうはいっても、2月に入り、更新ペースは落ちていく。
それでもなんとか毎日更新は保ちつつ頑張った。だが、2月7日には定時更新に間に合わず。さらに、10日以降はぎりぎり毎日更新を維持するので精一杯となっていく。
だがおれの手はまだ動く。
ポイントに後押しされて、動き続ける。
物語もクライマックスを迎えており、主人公ボインは敵地へ乗り込み、ライバルと共闘して巨大モンスターを倒し、さらには女神に謁見した上でチートなアイテムを授かり、ついに魔王と剣を交える。
そして、主人公同様、おれもボロボロになりながらも、2021年2月16日、12時00分。
ついに『ボインの伝説』は、完結を迎えたのだった……。
そこにたどり着けたのは。
間違いなく、評価ポイントと、それを与えてくれた読者のみなさんの後押しだったのだ。
完結直前の2021年2月15日の段階で。
累計PV8,125,438アクセス、総合評価 39,832 pt、ブックマーク登録 8,397 件となっていた『ボインの伝説』だった。
いつもの読専の知人から『おい! この高ポイントからの新作投下しとかんと! 今なら次の作品に読者つながってくるんだぞ?』というメッセージが入ったが、おれの指はもう動かなかった。
そのアドバイスは間違いなく正しいのだろう。だが、動かなかった。動けなかった。
燃え尽きていた。
そう、燃え尽きていたのだ。完全に、だ。
それは『ボイ伝ロス』とも呼べる現象だった。
予想外に5ケタポイントを超えてしまった、趣味で書いていた小説に、およそ2か月間の、のめり込むような創作という頭脳労働。
いや、金銭は1円たりともおれには発生していないので労働とは言えないのかもしれない。
だが、1月中はそのほとんどが毎日複数話更新を続けるなど、ランキングチャレンジでのめり込み過ぎたのだろう。
本当に、燃え尽きてしまったのだ。完全に。灰すら残っていない。どこかのボクサーよりも影が薄い。
合計で100万文字を超える作品となった『ボインの伝説』を約1か月半で書き上げたのだ。
そこに詰め込んだエネルギーはいったいエナドリ何本分か、想像もつかない。何度、おれの背中に翼が生えたことだろう。
これを、趣味、というにはあまりにものめり込み過ぎてしまった。
まさに燃え尽き症候群。
そして、何も書けないまま、忙しい仕事に追われ……。
2023年3月。『小説家になったろう』のトップページで、おれはある募集を見つける。
通称『なったろうコン』の募集だった。
燃え尽きていても、ランキング上位となった『ボインの伝説』だ。自信はあった。だから、タグを追加してコンテストに応募する。
運がいいことに、どなたか読者様による推しがあったらしく、作品がピックアップもされ、コンテストのウェブサイトで紹介された。
「まさか、趣味が、趣味じゃなくなる日が、来るのか……」
そんな夢を見る。それも、割と本気で。
なぜなら5ケタに届くポイントをもらうことができたのだから。
それが自信につながっていた。それと同時に、それが燃え尽きた原因でもあった。
2023年4月。
年度末の忙しさを乗り越え、久しぶりに思いついた新作を投下。
いつもの読専の知人から『だから言ったじゃねぇーか。もう遅いんだって』というメッセージが届く。「バカ」と書かれていないのは、優しさだったのかもしれない。
新作のポイントは全く伸びなかった。
そして、買い集めていた名作『本ラブの大出世』の新刊が発売され、じっくり味わうために、改めて1巻から、全て読み直していく。
そうすると、おれは自分の書いた『ボイ伝』がいかに浅く、軽いものだったのかと思い知る。『本ラブの大出世』はラノベの最高峰であり、コミカライズやアニメ化はもちろん達成している。描かれている世界はどこまでも深く、遠い。まさに日本のポリー・ハッターだ。
3回、『本ラブの大出世』の全巻読み直しをしたところで。
ふと気がつけば、おれは自分では1文字も書くことができなくなっていた。
わかってはいたのだ。
所詮は、自分が素人でしかないんだってことくらいは。
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