第2話 不名誉な功績
これは悪い夢を見ているのか・・??
お、俺は、人をいったい何人殺した・・・!!?
こんなの現実じゃない、、、現実じゃないんだ!!
一瞬で沢山の現実逃避の言葉が脳内を駆け巡る。
どれだけの被害者を出したのかわからない惨事を引き起こしても
剛の脳内にある言葉に謝罪も反省も無い。
と、言ってももはや彼に脳みそは存在しない。
武田剛は今、3メートルは地上から浮いた状態で俯瞰した状態で
燃えるトラックと破壊された店内を見ている。
救急・消防・警察などの沢山のサイレンが鳴り響いている。
「お、俺は、死んだのか・・・??」
ふと我に返った彼は自分が有りえない場所からこの惨事を目撃している事に気が付く。
いわゆる霊体になったのだろうか。
とんでもない事をしてしまった。
恐らくもし仮に生きていたとしても重犯罪者、極刑不可避だろう。
「ん、待てよ、俺はともかく家族は、家族はどうなってしまうんだ!!!」
剛には実家で暮らす年老いた母と漫画家志望の妹がいた。
自分の素行不良や自由奔放な生き方のせいで随分迷惑をかけてしまい
今では絶縁されていたが、
それでも猶も彼にとっては大切な家族だった。
声にならぬ狼狽を上げて絶望に打ちひしがれる剛。
「うぅ・・・う・・・・・・・」
後悔と絶望で涙が止まらない。
と、その時
この状況に似つかわしくない美しい声がまるで脳内に響くように聞こえた。
「また、、、またなんですか、武田さん・・・」
呆れたような、どうでも良いような声色が不意に響き
剛はあたりを何度も見まわした。
「また??またって何だ!?何のことだ!!」
当然の疑問が浮かぶ問い返す。
「はぁ・・・えーっと、記憶は転生の都度消却してるので覚えていないと
思いますが、あなたが大惨事を引き起こすのはこれが初めてじゃないって事ですよ」
声はめんどくさそうに答える。
「は???どういう事なんだよ、た、頼む、説明してくれ!!
俺は頭が悪いんだ!!」
「いや、知ってるし。オマケに運も悪いし、人付き合いも下手だし、
やる事なす事が全てカラ回りなんですよねぇ、武田さん。」
「ぐぅ・・・」
剛は痛い所を付かれて呻く事しかできない。
気が付くと周囲は無明の闇となり、剛の身体はまるで見えない手で鷲掴みにされた
ように動かなくなっていた。
そして淡い光の粒子が粉雪のように現れたかと思うと
光が収束して女性のシルエットを成した。
声は語りかけてくる。
「武田さん、あなたはこれで6回目の転生なんですよ。
色んな時代やシュチュエーションでも転生してやり直しをして来たんですが、
全て自業自得で大惨事を招いて不慮の事故で亡くなっています。」
剛は現実感の無い説明で理解が追いついておらず、
説明されてから1分間は口を開けていた。
「お、おい!ちょっと待てよ、不慮の事故って事はやっぱり
あれは俺のせいじゃないんだな!!」
声を荒げて問い詰める剛
「ええ、うーん、事故というか他殺ですかねぇ。」
突拍子も無い意外な答えに剛は驚いた。
「た、他殺!?ど、どいう事だ!!トラックに細工でもされていたってのかよ!!
でも、俺は誰かに恨みを買うような事は・・・!!」
すぐに反論する剛だが、シルエットの声にすぐに反論される。
「いや、沢山してましたよ。子供の頃にオモチャを壊したり奪ったり、
大人になってからも暴行、暴走行為、恐喝、詐欺、それにお世話になった方の
恋人もNTRされてますねぇ。
あー、それに借金の踏み倒しにギャンブル依存、あー、だめだ、こりゃ、クズですわ。」
「なんか自分は悪くないって感じの回想してましたけど、都合の悪い所は忘れてるんですかね。
これだから人間は嫌なんですわー」
剛は自分がしてきた業を脳内で強制的に回想させられていた。
「うぐぐ・・・」
声は猶も続ける。
「本来なら地獄行きか消滅確定なんですが、貴方がこれまでしてきた功績に免じて
不本意ですが、もう一度だけ転生を行います。」
意外な提案に驚く剛。
「功績・・・?なんの・・?悪行の・・?」
シルエットの声は返答する。
「いえ、異世界へ転生者を送り込むトラック運転手として
これまでの六生で通算100人に片道キップを渡した特典ですね。
いやー見事なものですよ。これが無ければ今度こそ消せたのに・・・」
シルエットからは判別できないが、軽蔑の眼差しを感じた。
「え?今なんか俺の存在を消したかったみたいな事を言ったような・・?
てか、凄く不名誉な特典だな・・・業が深すぎんだろ・・・」
シルエットはさきほどまでと態度が打って変わってお調子者のトーンで
続ける
「ハーイッ!うるせー!!もうこの世界では面倒見切れませんので、
今ハヤリの異世界転生を行いまーっす!」
「えっ、今から!?ちょっ、心の準備が・・・!!
わ、悪かったよ、反省してるって、今度こそちゃんとやり直すから!な?
ちょっと、待てよ!」
慌てふためく剛の身体が煌々と輝きはじめ、光の粒子となっていく。
「ま、待ってくれ、まだ、反省も、謝罪もしていない!!
このままじゃ何も解決しないだろ!!」
自分に都合の悪い言葉だが、身体が消滅していく恐怖から咄嗟に
剛は叫んだ。
シルエットはニヤリと笑った気がした。
「向こうで贖罪プログラムを実行しますので、気兼ねなく
後悔でも反省でも行ってください!
ではっ、いってらっしゃーい!!」
まるでアトラクションのスタッフのように明るく送り出すシルエットの
声が喋り終わる頃には
剛の姿は完全に粒子と化し、
最後の一粒が消えようとしていた。
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