第14話

「なるほどねぇ。わかったよ。

 でも良いのかい?」

「え? 何が?」

「魔術を教えるって、普通なら大金を取れる話じゃ無いのかい?」


 孤児院まで一直線に戻った私は母さんに事情を説明した。探索者三名の殺害を含む嘘偽りのない方を。その答えは先ほどの通りだ。

 ちなみに彼女には水浴びをしてもらっている。子供たちが毎日綺麗にしている孤児院で歩きまわるによろしくない姿だったからね。


「構わないかな。私も他人に教える事でいろいろ確認したいから利点はあるんだよ。

 それにジェスター兄さんも困ってるんでしょ?」

「まぁ、ねぇ。あたしも騎士術を教えられたら良いんだけど、説明がどうにも出来なくてね。学校で何か習わなかったのかい?」

「魔術と騎士術は根本的な使い方が違っていて、両方を使える人って居ないとは聞いたかな。だから私にも騎士術を教えるのは無理」


 魔力を使うという根本は同じはずだけど、魔術師は騎士術を、騎士は魔術を使えないとされている。

 原因は魂が魔術と騎士術のどちらかに最適化し、変容するからとの説が根強いけど、それだと睡眠による魂の回復理論に矛盾が生じる。騎士術用、魔術用、一般用の魂の原本があるのなら話も変わるけど、複数あると言う説は聞いたことがない。


 私としては「最適化されているのは体の方」という説を推している。「体内に描いた術式に魔力を通す」魔術と「体表に保有魔力を纏って巡らせる」騎士術。魂が魔力を操る点で同じだけど回路を描く場所や出力方法は繰り返すたびに順応が進み、違う方で試そうとするとダメになるんじゃないかって説だ。これについても体表や体内に溝や穴が出来ているわけではないため懐疑的な意見は多い。

 

「アンタ、急に考え込む癖は変わらないね。域外でやるんじゃないよ?」

「はぁい」


 そんなことしないよ。と言うには心当たりがあったので素直に返事をしておく。〈魔力探知〉を無意識に使う癖をつけているにしても自分がやったように高度差で見逃しを起こす可能性のある術だ。鼻歌交じりに域外を散歩できるほど程私は強くはない。


「あ、あの……」


 水浴びから戻ってきた従師ちゃんがおずおずと声を掛けてくる。汚れてゴワゴワしていた髪が綺麗になるとその痩せ具合が一層際立ち私は歯噛みする。


「座んな。腹が減ってるだろ?」

「え? あ、でも」

「セラの弟子になるんだろ?

 なら、うちの子のようなもんさ」


 言葉が届いているのか。石のように固まったまま母さんを見る従師ちゃんは、突然ぼろぼろと大粒の涙を流し始めた。


 え? どうしたのと呆然とする私の横を通り、母さんは従師ちゃんをその大きな体で抱きしめる。


 縋り付いて泣き続ける彼女の姿を見て、ようやく何が起きたか理解した私は、恵まれてる方なんだなぁと思わず呟いて、足元に伏せるウィロの頭を撫でるのだった。

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