異物
ダメだ。どうしても落ちない。
私は小川で洗った服を見ながらまた泣きたくなっていた。
あの子たちが投げてきた実のせいで、服がすっかり汚れてしまったので小川で洗ってたけど、染みや匂いが結構残っているのだ。
せっかくママが作ってくれた服だったのに……
気に入ってたけど、もう着れそうにない。
すぐに帰ってれば良かった。
その時、ふと小川に写る自分の顔が目に飛び込んできた。
(!!)
私は慌てて目をそらした。
せっかく見ないようにして洗ってたのに。
何て醜い顔と姿。
他の誰とも違う。
これじゃあ化け物と言われても仕方ない。
私だって、こんな姿の女の子と歩きたくない。
だからあの人たちは悪くない。
うん、そうだ。仕方ないんだ。
心臓のドキドキが落ち着くと一人で頷いた。
でも、心は市場に居たときよりも何故かズキズキ痛い。
私はぽつねんと歩き出した。
やがて見えてきた木で出来た小さな小屋。
そこが私とパパとママのお家だ。
それが見えてくると共にお庭の花畑も目の入ってきて、思わずホッとする。
パパとママが私のために植えてくれたのだ。
本当は二人がお花が嫌いなのを知っている私は、無理しなくて良いと言ったけど、二人は何も言わずに時間をかけて素敵なお花畑を作ってくれたのだ。
その思いに涙が出るほど嬉しかった事を思いだし、チクチク痛かった胸の奥が少し和らいだ気がした。
そのお花畑を歩き、小屋のドアを開ける。
中には森トカゲの皮を剥いでいるパパと、芋をゆでているママの姿があった。
「……ただいま」
私の声に二人はパッと笑顔を向けてくれた。
「お帰り、リエル」
「おつかい、おつかれ。リエル、疲れた?」
「うん、でも……ちょっと服が汚れちゃった。ゴメンね」
二人は目を細めると私の近くに来て、匂いを嗅いだ。
そして察したようだった。
「ごめん。また嫌な思い、させた」
「リエル。お使い、もういい。私たちが行く」
「ううん。パパもママも沢山歩けないじゃ無い。それに……私のせいであの坑道に住めなくなったんだから」
そう、化け物の私を育てている二人は坑道のみんなから後ろ指を指されるようになり、嫌がらせが酷くなってきたため、已むなくこんな森の奥に移り住まざるを得なかったのだ。
二人は他のみんなと同じで坑道の中のジメジメした薄暗い世界を心から愛していた。
それなのに、こんな森の中のような気持ちの悪い所に移り住む羽目になってしまった。
私は何故かこの森や日差しが心地良さを感じていたが、そんな自分に嫌悪感を感じる。
本当に私は変わり者だ。なんでこんな森の空気を……
「大丈夫。お前、気にすること、違う」
「そうよ。パパも私もこの森、割と好き」
「これもお前と出会ったから。神様、プレゼント、くれた」
私はまた涙が出てきた。
今日は何回泣いてるんだろう。
「リエル……」
「もう……嫌だよ私。なんでこんな目に遭うの?パパやママにも嫌な思いばかりさせて」
「そんな事、無い。パパもママも……」
「もう嫌!」
言ってはいけない。
分かってる。
でも止まらない。
「なんで私はパパやママや他のみんなみたいに、長い耳じゃなくて丸い耳なの? なんで頭にこんな変な馬の尻尾みたいな毛があるの? みんなそんなの無いのに。なんで私はみんなみたいに緑色の身体じゃ無くて肌色なの? なんで鼻がこんなに低くて丸っこいの? 私だって、他の女の子のように鋭い鼻や細い目がいい! こんな馬の尻尾みたいなのいらない!」
「リエル……聞いて」
「ねえ、私ホントにパパやママと同じゴブリンなの?」
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