閑話休題 4

昔々、この世界が機能していた頃の話である。

あるところに研究所があった。

研究所では白衣を纏った研究員達が毎日忙しくそれぞれの研究をしていた。

大人に混じり、十数人の十代前半の少年少女がいた。

この国では戦争による諸物資の不足が大きな課題とされ、特別に法令が出された。

十数年前の戦争による戦災孤児を労働力として使うというものだった。

彼等は工場で働く代わりに安全な寝床と食事、そして少々の賃金を与えられた。

児童労働などと言っている場合ではなかった。

大人の男の人口が減った事により工場労働者が国民の需要に全く足りなかったのだ。

人間とは利己的な生物で、自分と家族の命が無事なら家族も家も失った子供達が働いている事に疑問は感じなかった。

そして、彼等の中で特に優秀な者がこうして研究所に集められ、将来の科学の担い手を目指すということだった。

この研究所の15人の少年少女は、全国のそういった子供達の中から選び抜かれた15人であった。

皆それぞれにその自覚を持ち、誇りを胸に。

選ばれた本当の目的など知らず働いた。


研究所の記録――――

XXXX年XX月XX日、児童研究員XXXXが作業中誤って薬品が体にかかり死亡

――これは薬品の実験の為に消費された命

XXXX年XX月XX日、児童研究員XXXXがXX病で死亡

――これはウイルスの研究の為に消費された命


少年少女は気付き始めた。

死亡する仲間が多すぎる。

どうしたとしても同じ結果になっていたのではないだろうか。彼等は反乱を起こそうとした。

研究所の職員は自分達を実験のための鼠とでも思っているに違いない。

だいいち本当に賢い者など他にもいた。

そして―――粛清された。

職員達にとっては鼠が脱走したくらいの事だった。

彼等が外の世界に出て真実を訴えても人々は耳も貸さないだろう。


狭い部屋に閉じ込められ、気体が部屋に入ってくる。

仲間達が倒れていく。

少年がひとり、諦めたようにぼうっとしていた。

どうせ死にかけていた命、誰にも必要とされてはいなかった。

少年が意識を失おうとしたとき、部屋の中のガスの濃度が下がっていった。


どこか遠くでアラームの音がする。

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