4回目 6

目を覚ますと、ベッドの隣に椅子があって、右京が座っていた。

「おーい颯ー、庵君起きたよー」

俺が目を開けたことに気づくと右京は部屋の奥に声をかけた。

白衣を纏った颯が歩いてきた。

「おはようございます。残念ながら貴方の予想通りでしたよ」

「ってことは――」

「はい。重要臓器から毛細血管に至るまで体内の全てが人工物に作り替えられていましたよ。実に見事な出来栄えです」

「うわあ…」

我ながら引いてしまう。

今まで違和感もなく過ごしていたのだから改めてそう聞くと気色悪い。

その後颯からいろいろと話を聞いた。

響には、自爆した時の記憶はなかった。

颯と右京に詰問された後の記憶が抜け落ちているということだ。

「誰がどういった目的でやっているのかは知りませんが、完全に詰みですね」

どこか諦めたように颯が言う。

「…?」

どういう意味か理解できず固まっていると右京が説明してくれた。

「つまりね、さっきの響君の様子を見ていると本人の意思に関係なく突然操られるみたいなんだ。だからいつ襲ってくるかもわからない。二人を殺そうとしても二人は過去の時点に飛んで生き返ってしまう」

「でも俺達が生き返るのは過去なんだろう?いま現在の時点では死ぬんだったら問題なく進められるんじゃないのか?」

「試してみましょうか?」

颯が銃口を向けてくる。

目がガチだ。

「ちょっ」

「はーい、颯ストップ」

右京が颯から銃を取り上げた。

「だいいち今庵君を殺したとして彼がどの時点に巻き戻るかわからない。ループしているのが庵君である以上今の僕達の意識は消えるかもしれない」

「過去に戻るんじゃないのか?」

「もし君が繰り返しているのが時間素行ではなく並行世界への転移だとしたら?」

並行世界。

聞いたことはあるし、誰でも夢見たことはあるだろう。

ありえないわけではない。

存在する証拠はないが、同じように存在しないという証拠もないのだから。

「なんとかの法則みたいなやつでその並行世界に元々いた庵君は今僕の目の前にいる君と同一人物だとみなされて消されてるとか、まあ全部空想だけどあり得ないことはないと思うよ」

颯がありえないというような顔をしている。

「ありえないと思うかい?」

「ええ」

「そもそも俺が時間をループしてること自体が科学的に説明がつかないだろう」

「その通りですよ。私としてはまず精神病を疑っています」

「なんとかの脳、みたいな?」

「水槽の脳でしょう」

「それそれ」

「すいそうの、のう?」

「はい。端的に言えばこの世界は全て夢なのではないかという変質狂的な議論です」

変質狂。

颯が否定できないのが悔しいですがと言った。

右京が悔しいなんて感情あったんだねとふざけた。

颯がふざけてる場合かと右京の頭をフルスイングで平手打ちした。

「あだっ」

「そうだとしたら、俺が起きたときに颯と右京はどうなってる?響や暦は?」

「さあ。私達は貴方の夢の付属品かもしれませんね。または、貴方が誰かの夢の付属品か」

それはたまらなく恐ろしいことのように思えた。

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