4回目 2

後ろでかたりと音がした。

「っ」

振り向くと右京がいた。

「颯と響は?」

「いるよ」

彼の斜め後ろに颯が立っていた。

両手で響を抱えている。

響は意識を失っているようだ。

「庵くん」

名前を呼ばれて右京の目を見る。

「響くんについて情報は見つかった?」

「ああ」

紙を見せる。

「それを見せたかったんだよね。ここに出てくる言葉で何か心当たりのあるものはある?」

「全くない」

「その特異点という言葉が気になりますね」

「ん」

「彼…響が、概念が消えていくことの原因に関係しているという意味ではないでしょうか?」

そうだろうね、と右京が頷く。

「本人に聞くのは?」

「聞いてみたけど何も教えてくれない」

「他の書類も見てみようか」

「彼はどうしましょうか」

颯は響を抱えたままだった。

「庵くん、その辺の病室からベッド持ってきてくれる?」

「あ、ああ」

言われた通り向かいにあった病室のベッドを持ってきた。

右京はナースステーションにあった紐やテープで響の体をベッドに縛り付けた。

「とりあえずこうすれば起きた瞬間に脱出みたいなのは防げるから」

「殺さなくてよかったんですか?」

「まあね」

会話しながらも二人は書類に目を通している。

自分もそうしようと書類の山に視線を移した。

『XXXX年X月XX日、XXXX大陸のXX部の地域が消滅。諸国首脳はXXXXによる被災などと推測している』

ところどころ文字が消えている。

塗りつぶされている、ということではなく最初からなかったように。

誰も覚えていない、とはこういうことかと思った。

『XXXX年X月XX日をもってXXXX以外の大陸が全て消滅。XX日からXX日までの間でXXXXなど高威力な兵器が使用された事実はなく、この現象の原因は科学的には説明できない。』

「右京、颯」

「どうしたの?」

颯もこちらを見ている。

「例えばこの病院や俺達という概念だけが消えなかったとしてどうしてこの病院だけが残ったんだと思うか?」

「どうだろうね…」

憶測に過ぎませんが、と颯が話し始めた。

「ここは病院であると同時に何かの研究施設でもあった、とか。その研究施設で生まれた何かが世界をこういった状態に至らせた。それが『特異点』である、というのはどうでしょうか?いち病院に過ぎないここに記録が残っていることの辻褄は会います」

確かに辻褄はあっている。

「その可能性もある、くらいに考えておこうか」

「そうですね」

「最重要事項は死なないことだよ。庵君によると君自身が死んだときに加えて仲間である響君が死んだときもループしたんだろう?」

「え」

「拠点の鍵を開けたのは響君だろう?」

頷くと、じゃあ死んだのは響君の方だと言われた。

「私達が死んでも過去に戻る可能性がある、そしてその時には響の拘束の難易度が上がる、ということですね」

「そういうことになる」

言って右京はまたぱらぱらと書類を捲った。

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