3回目 9

「そんなわけで、僕頑張ったから誉めてよ」

「え、嫌です」

「ほーめーてーよー」

「嫌です」

数日後、右京の能力で全快した颯は五歳児、もとい右京に付き纏われていた。

なお感謝の言葉は伝えてある様子である。

この野郎ふざけんなと颯は思った。

颯は作業部屋で作業中である。

右京は作業部屋までついてきて颯の手元を覗き込んだり後ろに立ったり机に頬ずりしたりと忙しそうにしている。

朝食を運んできたとみられる高校生二人組が部屋の入り口で立ち尽くしたままドン引きした目で自分達を見ている。

面倒臭くなってあー偉い偉いと棒読みで誉めると奴はにこにこして出て行った。

「あっ庵君と響君じゃん」

「は、はい」

「何してたんですか…」

「颯に褒めてもらってたんだよ」

「「アッハイ」」

大人が大人に絡んで誉めさせる場面を目撃してしまった高校生達に同情しつつ改めて先程の情景を言葉にして吐きそうになる颯だった。


「え、病院の外に出てみたの?」

「はい」

「よく死ななかったね、僕達は出た瞬間に死んだよ」

「えっ」

「それで、病院の外はどうなってたの?」

「吃驚するほど何もなかったね」

「ああ」

「やっぱりそうなるかー…」

「何か知ってるんですか?」

「まあね」

知的な会話をするのはいいが何故作業部屋で話しながら朝食を摂る必要があったのだろうかと颯は思った。

彼は天性の苦労人気質であった。

高校生二人がやってきたことで颯の苦労も増えるというものだった。

「颯、なんか疲れてる?」

「そんな顔してるね」

「そうですねー誰のせいでしょうかねー」

「傷が痛いんですか?」

「残念ながら完治しています」

「僕のおかげだね」

この野郎ふざけんなと颯は思った。

「黙ってください。そしてリビングに戻ってください」

「はーい」

なんとも気の抜けた返事をして右京は部屋を出て行った。

どうしてこいつは平然と自分と接するのか。

「…右京さん、貴方は私を棄てたんですよ」

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