廃社

すらかき飄乎

一  雷雨

 激しい音と地響きで目が覚めた。

 まだ、夜明けには随分早い。

 闇を冒して足許あしもとの窓が不穏な様子で明滅している。


 光と音との連関性には、初めのうち、多少のずれがあったものの、みるみるその間隙かんげきが縮まり、それとともに、光と音の規模も増大し、いよいよ以て凄まじいものとなっている。


 とこから起上おきあがり窓掛まどかけを引いて、硝子ガラスの外を見やる。


 空を志向して見開いた瞳孔が向かう先、瀰漫びまんした黒雲が厚く視界をおおっている。

 彼方に確かに存在している筈の、月や星といった天体からの光はことごとくさえぎられ、その実存の痕跡をも一切亡きものにされている。

 天体の光に変わって、鬱勃うつぼつたる堆積たいせきの内側から、ばりばり凄まじい音とともに奔騰するような激しい閃光がおこり、ただならぬほどにまばゆい裂け目を一瞬生ぜしめたと思ったら、すぐにまた別の箇所かしょしこれる闇を新たに裂いては閉じ、また別にわだかまる鬱積が、新たに裂けては閉じる。

 その裂け目の幾筋かは、遂には地上にまで到達し、大いなる衝撃に大地が鳴動する。


 破綻、瓦解といった文字もんじが連想される。

 ――ゆゆしき光、音、振動。


 黒雲に潜んでいた、億兆を遥かに超える闇の粒は、今しも水と凝り、地上の土に、木々に、屋根に、――あらゆるものに叩き付け、あとからあとから際限もなく叩き付け、砕け散っては更に微細なる粒と化して煙りわたる。

 その水煙みずけむりは、或いは雷光を反射しつつ、光を帯びぬ時には闇のままに、あらゆるものを狙って、容赦ない浸潤を試みる。


 自分は、ふと、あれを思い浮かべた。新聞紙しんぶんがみに半ばくるまれ、半ば曝露されたあれ。


 あれもまた、雨に打たれているのだろう。

 目をねむって口を開けたまま。

 数里に及ぶ高みから落ちてきた水の粒が、いくつもいくつもあれの表面にぶつかり、癇癪玉かんしゃくだまの如くに炸裂する。

 幾千もの粒と、それが砕けたさらに細かな幾万もの粒、粒、粒、粒、粒、粒……

 あれはその衝撃に震え続けているのだろう。

 そんな様子を想像してしまっては、自分はもはやとこに体を横たえたにしても、まんじりともできぬ。

 己の体温に蒸された布団の上で輾転反側し、夜明けまで時を過ごす外はすべもない。




                         <続>




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