第11話 出立の決意
村に滞在を始めてから既に2週間が経つが、今のところルシアに危険が迫るという様な事態は起きていない。
それとなく本人にも聞いてみたところ、山の魔物以外に襲われたなんて経験も無いそうだ。
居心地が良すぎて先延ばしにしてしまう前に…、そろそろ出る事も考えなくてはならない。
(別に目的地がある訳じゃ無いけど、折角なら色々旅したいよな…)
探し人達が『アスタラビスタ』と名乗っていた事も分かった。各地を巡って彼らの痕跡を探すのも良いだろう。問題はいつ出発するかだけど…。
「エスメニャルダ、今日も良い毛並みだな」
「本当に可愛いですね〜」
「そう、いいわよ。もっと撫でて頂戴?」
ルシアとセラフィに撫で回されるエスメニャルダ。彼女達ニャプリス族の存在はそこそこ有名な様で、国によっては人族と同じ待遇で生活している者達も居るらしい。
エスメニャルダのゴスロリ服もそうだが、ニャプリス族は手先が器用な為細かい作業の働き手としても需要が高いとの事だ。
そんなこんなでエスメニャルダを紹介した時は特に驚かれる事もなく、どちらかというと何故こんな山奥に?という疑問の方が強そうだった。
「ゴロニャン...」
「ふぅ、名残惜しいがそろそろ狩にいかねばな」
「あ、もうそんな時間か」
「ではエスメちゃん。また帰って来たら撫でさせて下さいね?」
「仕方ないわね…、夕飯を作って待っていてあげる」
エスメニャルダ改めエスメ。彼女も多少の魔法は扱えるみたいだが戦闘力は高くないのでお留守番である。その為か率先して炊事を任されているのだが、小さな手足を使って器用に料理をする姿は何とも奇妙な光景だ。
村を出て数時間。いつも通りといった様子で獲物を幾つか仕留めた俺達は、最初に出会った池の近くで昼休憩を取ることに。
雑談を交わしつつも昼食を食べているとセラフィが真剣な表情で問いかけてきた。
「さて…ツグミ。何か話したい事があるんじゃないか?」
「え?」
「最近、時々何か考えこんでいますよね?」
どうやら2人には俺が悩んでいるのを感じ取られていた様だった。誤魔化しても仕方がないのでここは正直に伝える。
「実は、そろそろ村を出てみようかと考えてた」
「ツグミさん、やっぱり出ていっちゃうんですね...」
「うっ」
悲しげな顔で俯くルシア。非常に申し訳なくなるので勘弁して欲しい。
「まあ、短い間とはいえ狩をした仲だからな。私も寂しく無いと言えば嘘になる」
「セラフィまで...」
「何か、旅に出る理由が出来たんですか?」
「理由…というとまた違う気もするんだけど、世界の色々な所を巡ってみたいんだ」
ルシアは今の所何不自由なく暮らせているし、俺自身の実力もある程度は付いてきた。狩に参加する様になり2人からもお墨付きをもらっている。
アスタラビスタの保護、若しくは定住先の確保という目的において、今の俺に出来る事が特になければ村に留まる理由もない。
連絡手段が発達していないこの世界でここを去ったら最後、旅の流れ次第では彼女達に会う事は2度と無いかもしれない。
そう考えると心の奥がキュッと締め付けられてしまうが、頭で割り切り次へ行く決心をする。
「2人共ありがとう。確かに短い間ではあったけれど…、村での事は全部、一生忘れないよ」
「ツグミさん…」
「で、いつ発つんだ?」
「そうだなあ……、長居すると余計に寂しくなりそうだから、明後日の朝には出ようと思う」
「明後日か…、わかった」
「一ヵ月位ゆっくりしてくださっていいんですよ?」
二週間でこうなってしまうというのに、一ヵ月も居たら永住も視野に入りかねない。
「そんなに居たら村から出られなくなるって」
「私は全く困りませんのでその方が嬉しいんですが…」
珍しく聞き分けの悪くなったルシアを見て微笑むセラフィ。
「まあ、村には同じ年頃の男が居ないからな。そうなるのも無理は無いさ」
「なっ…!そういう意味じゃないから!」
確かに。村の人達は大体40~50代位の夫婦とその子供達、後は老人ばかりだった。同世代の男性が居ない2人は将来、あの子供達の誰かと結婚したりするのだろうか。
「さあ!じゃあ今日は多目に狩って、明日は1日休みにしないとな!」
「ささやかですけど、エスメちゃんも入れて私達4人で宴会ですね」
わざわざ俺の為に送迎会をしてくれるらしい。この後に及んで更に名残惜しくなってしまうが、この瞬間から出立の時までは最大限に楽しもう。
2人の顔を見つめつつ、改めて出会えた事を感謝した俺だった。
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