第10話 謎の小人と猫耳と
村に滞在を始めてから早一週間。風呂のお陰もあって村にも随分馴染めた今日この頃…。
休みをもらった俺は何をするでもなく、人目に付かない場所でぼーっとしていた。
「魔法使えるって言っても、あれで倒れるんじゃまだまだだよな」
掌の上に小さな火を作り出してみる。日々練習を重ねている成果もあってか今ではこの程度の魔法であれば簡単に発動できるようになった。
しかし使える魔力の量に関しては特に変わってないように思える。ゲームや漫画の様に残量が分かれば成長も分かりやすいというものだが、そう上手くはいかない様だ。
セラフィ曰く、扱える魔力の量は筋肉や肺活量と同じで、コツコツ魔法を使って鍛える以外に根本的な解決策は無いとの事。一応回復薬や他人からの魔力譲渡といった手段もあるらしいが、所詮その場凌ぎの方法だ。
因みにこの世界の人々にはそれぞれ得意な属性というものがあるらしく、その属性の魔法であれば大幅に魔力を節約できるらしい。セラフィとルシアが同じ魔法しか使わなかったのもそういう理由との事。
「ん?ルシアに得意属性があるってことは俺にもある?」
あの男…、俺を転移させた男はその辺りに関しては言及していなかった。魔力がごっそり削られた風呂釜は土属性の魔法?だとしてそんなに疲れないお湯は何の魔法になる?火と水?属性の定義とは?
疑問が次から次へと溢れ出てきて頭がオーバーヒートしそうになる。
「そもそも魔法っていう概念がフワッとし過ぎなんだよなあ…」
男曰く、魔法とは神が世界を創造する際の力だと言っていた。であれば結局の所、魔力さえ足りるなら大抵の事は出来てしまうのだろうけど…。
「居た!あなた、アスタラビスタの一族ね?」
「え?」
いきなり声を掛けられ後ろを振り向く。そこに居たのは赤ちゃ…猫…人…?
二頭身の体に猫の様な耳と、コスプレかと思う程の本格的なゴスロリ服。あまりにもファンシーな存在が、そこに居た。
「魔物?」
「魔物じゃないわよ!私はニャプリス族のエスメニャルダ!あなたのその特徴的な魔力を辿って来たの!」
お嬢様然とした振る舞いで恭しく頭を下げるエスメニャルダ。その様子は何とも可愛らしいが…。
「俺の魔力…?」
「そ。あなた達の里は随分前に捨てられたみたいだし、いつの間にかこんな所に移り住んでるんだもの。心配してたのよ?」
どうにも話が噛み合わない。人違いをしているようだ。
「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は君が探している人達とは違うと思うよ。ここに来たのは最近だし、その前はずっと遠い所に居たけど、君みたいな…ニャプリス族?も初めて見たよ」
「んー?おかしいわね…、ちょっと失礼」
そう言ったエスメニャルダが飛び込んできたかと思うと、首元の匂いを嗅ぎ始めた。
「スゥー...フゥー......。うん、やっぱり間違いじゃないわ!私がアスタラビスタの人達を間違える訳ないし」
「というかそのアスタラビスタ?って何なんだ?」
「私達が里を去った後に生まれたのかしら?人族の成長速度は分からないけどその可能性もありそうね」
「おーい?」
「まあ、いいわ。本当に何も分かってなさそうだし、仕方ないから少しだけお話しましょう」
…遡る事数十年前。当時狂暴な魔物に追われて移住先を探していたエスメニャルダ達ニャプリス族は、山奥に隠れ住んでいた人族の里に匿ってもらったそうだ。
その里の人は綺麗な銀髪の者が多く、皆魔法に秀でていたのが印象的だったとか。
しかし暫くするとニャプリス族は一族だけの定住先を探し再び移動。その当時まだ幼かったエスメニャルダはその時遊んでくれた人族が忘れられず、最近になってやっと里に行ったと思ったら既に人影はなく、里は荒れ果てた土地と化していたそうだ。
「で、その時お世話になっていた人達がアスタラビスタの一族と」
「そうよ。あの時遊んでくれた御方の、あの温かい魔力が忘れられなくて…、やっと独り立ちして会えると思ったら里には誰も居ないんだもの…。もうあなたでいいわ」
不満を漏らしつつも頬ずりしてくるエスメニャルダ。随分と不躾な物言いだが愛くるしいその姿を見れば怒る気にもなれない。思わず耳元のフサフサした所を撫でてみると、その場でゴロゴロと転がりだした。
「あなた、中々撫でるのが上手いじゃない。これから毎日一時間は撫でてね」
「えっ」
不穏な発言はさて置き、エスメニャルダの話を聞くに『アスタラビスタの一族』とは俺やルシアの同胞、お仲間という事で間違いは無さそうだった。
「それにしてもあなた、魔力が極端に薄くなってるけど何かの修行中?」
「薄い?」
「ええ、人族の罪人は良く魔法を使えなくする為に首輪みたいなのを付けられてるけど、そんな感じね。まさか自覚なし?お陰で辿るのも一苦労だったんだから!」
「俺のせいにされても…」
指輪による副作用的な物だろうか。身に着けているもので一番可能性の高そうな物はこれしかない。
「試してみたいけど流石に駄目だな…」
外してみたい衝動に駆られつつ、諦めてエスメニャルダを撫で続ける俺であった。
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