第9話 露天風呂作り

 人生初になる魔法を発動させた後、二人からは結構本気で叱られた。俺としてはちょろっと温水を出す程度のつもりだったんだけど、結果として狩りを一時中断する事態に。


 服が乾くまで時間を取られたのもあったけど、魔力の使い過ぎで倒れるぞと滅茶苦茶心配させてしまった。やはりというか、必要以上に魔法を使った場合はそれなりのデメリットがあるらしく、良くて疲労感や脱力感、最悪の場合は昏睡状態になる事もあるのだとか。


 特に疲れたりという事は無かったけど、限界を見極める必要はありそうだと思った。


 因みに何故魔法が使えるのか、という質問にはまたしても記憶が無いと有耶無耶にしてしまった。流石の二人も怪しんだ様な目をしていたけど、教会へ行った事も忘れているのだろうと何とか納得してくれたようだ。じゃあ何で名前は都合よく覚えているんだとか、色々突っ込まれたら詰みそうだがそうならないことを願う。





 という事で夜、自分がどれ位魔法が使えるのかを試す意味も込めて練習を始めてみた。


 集会所の裏手が空き地と化しており、結構な広さもあったので丁度良い。建物に隠れている為こそこそするのにも最適だ。


 当然火気厳禁、それと昼間の様な暴発で村に迷惑だけは掛けたくないので細心の注意を払う。


「どうせなら村の人達が喜んでくれるものを作れないかな」


 お湯が出せたのだから、言うまでも無く風呂が欲しいと思うのは必然だった。聞けば村の人達にはそもそも風呂という発想が無く、基本的には濡らした布でゴシゴシと体を拭く感じ。ルシアとセラフィに限っては仕事の都合上返り血などを落とすために水浴びをしているとの事だった。


 という事で温泉...、といっても直接穴を掘ってそこに湯を張る訳にもいかない。土砂崩れ的な危険性がありそうだからそれは却下した。


「石、石……石なら大丈夫かな?」


 風呂釜の知識なんてある訳も無いので、とりあえず一人用の物をイメージしてみる。銭湯とか行くと露天風呂にあるやつだ。


 手の先に意識を集中させその形を思い浮かべる。何もない所からお湯が噴き出したんだ、それが石だろうと何だろうと出来ないことはないはず…。


「おっ、出来てきたけどやば…力が、抜ける……」


 結果としてそれっぽい形の風呂釜は何とか作れた。しかし予想以上に魔力を使ったのか、体から力が抜けてその場に倒れこんでしまう。


 どうしたものかとグッタリしていると、背後から声が聞こえてきた。


「ツグミさん?居ませんか…?」


「寝てる訳でも無さそうだが…って、何をやってるんだお前は」


「ははは…、ごめん。早速やらかした」


 いきなり完成品を見せて驚かせたかったんだが、その後は普通に怒られた俺だった。






「それで?この入れ物はなんなんだ?石で出来ているようだが…、こんな大きな物を作ったのか」


「風呂の事、聞いた事が無いって言ってたからさ、村の人用に作れないかなって」


「ここにお湯を?」


「ああ。早速お湯を貯めるから、良かったら二人で試してみて。一人で入るには微妙にデカいしな」


 一人サイズを想定してイメージしたんだけど、またしても想像より規模の大きい現象を起こしてしまった。しかし風呂釜なら大きいに越した事は無い筈だ。


「ふむ。ありがたいがここはちょっと落ち着かないな。簡単な仕切りを作るか」


「丸見えだしね…」


 そういうと何かを取りに向かったセラフィが、物干し竿とシーツを持ってきて釜の周囲に目隠しを作った。準備も出来たみたいなので早速お湯を入れていく。蛇口からちょろちょろと出すイメージで意識すると、丁度いい具合にお湯が出た。


「準備できたぞ」


「うむ。じゃあ早速入らせてもらおう。ツグミは念のため外で見張っておいてくれるか?」


「分かった」


「では私も、ありがとう御座いますツグミさん」


 ペコリとお辞儀して仕切りの中へ入っていく二人。暫くするとバシャバシャと音がしてくる。


「おぉ…!これは……気持ちいいな」


「体の中まで温まって、何だかホッコリしますね…」


 喜んでくれているようで良かった。思いがけず手に入れた力ではあるけれど、こうして誰かの役に立てるなら何よりだ。


「因みに香りの強い果実の皮を入れたり、風呂に入りながら冷たいものを飲むのもお勧めできるよ」


「果実…、そういえば家にミコンの実が残ってたな」


「実はミコンミルクにして、私の氷で冷やしておきましょう!」


 早速あれもこれもとアイデアを出し合い始めた二人。涼しい風と二人の声を受けて心地よくなった俺は、寝そべって空を見上げてみた。


「すげー星」


 母の実家がある田舎よりも尚綺麗に見える星空。そんな星空に雲一つ見当たらない今日は、まさに絶好の露天風呂日和だった。


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る