第8話 暴発

 村へ着いた翌日。食べるのも忘れて眠ってしまった俺は空腹で目を覚ました。とりあえずトイレを済ませて手洗い場で顔を洗う。持たされた鞄の中にはタオルらしき物も入っていたので、体を拭いてさっぱりしてから集会所を出てみる。


「んー!最高の朝だな」


 昨晩は気付かなかったが、集会所の入り口から村の入り口を見れば何やら大きな都市らしきものが見えている。この国の王都とかそんな所だろうか。


 不純物を一切感じさせない澄んだ空気、これでもかとスローライフ味を感じる村の雰囲気、そして遠くに見えるファンタジーの塊。


 異世界に来て初めての朝は最高のロケーションだった。


「ツグミさん、もう起きていたんですね」


「ルシア、おはよう。セラフィもおはよう」


「おはよう。昨日は夕食に誘おうと思ったが既に寝てしまっていたな」


「マジか…。気遣ってもらったのに申し訳ない」


「大丈夫ですよ。それより、お腹も空いているでしょうから朝食にしましょうか」


 裸を見てしまった一人と見られてしまった二人ではあるが、ルシアとセラフィの様な二人と出会えた事は本当に僥倖だった。


 その後、ルシアの家にて朝食を済ませた俺達はお互いの予定を確認していく。


「昨日話し合ったんだが、ツグミには昨日の様に私たちの狩りに着いてきてもらいたい。いけそうか?」


「ああ。役に立てるかはわからないけど頑張らせてもらうよ」


 当初はキツいかと思った山歩きだったが、意外にも疲れを感じなかった。魔法を身近で見れる点もありがたい。それはセラフィも考えてくれていた様で。


「獲物を狩った際に何を意識して魔法を使ったのか、その都度教えられる方が都合も良いと思ってな。そもそも村では人手を必要としていないのもあるが」


「そうですね。ツグミさんが村に定住するという事であれば狩り以外もお教えしますが…」

 

 定住―。ありがたい提案だが今のところその選択肢は考えていない。旅の目的の一つとしてルシアを保護すると言っても、今の俺には何の力も無ければ他に安心して暮らせるような場所も提供できないのだ。そもそも本人が危険に晒されたとして、この村を離れる決断をするだろうかという問題もある。なので暫くこの村で過ごして何も無さそうならとりあえず旅を続けるつもりである。





 食事や洗濯などの家事を終わらせ狩りに来た。俺は昨日と同じく二人分の荷物を持っての移動である。


「そういえば昨日俺が吹き飛ばされたキノコってなんなんだろう?二人は知ってるのか?」


「吹き飛ばすキノコというと、モコポンでしょうか?割とどこにでも生えているみたいですよ」


 モコポン。キノコというよりはゆるキャラの様な名前だった。


「モコポンは特性さえ知っていれば色々と活用できる植物だぞ。時々あれに飛ばされた獲物がとれたり、切り取って茂みなどに隠せば戦闘にも使える」


「戦闘?」


「この辺りにも時々盗賊や魔物が出てくるんです。村の方達もそれなりに戦えますので何とかなってはいますが…」


「盗賊はともかく、魔物ってどんなのが出てくるんだ?」


「小鬼と呼ばれる小さな奴らが多いな。サルが悪意を持った様な奴らで、それなりに頭も回るし積極的に襲ってくるから厄介だ」


 何となくゴブリンを想像してしまった。


「…っと、ツグミ。獲物が近いから少し離れていろ」


 何も出来ないので物音を立てないようその場を離れる。二人の狩りは大体昨日と同じ感じだった。ルシアが牽制&攻撃、セラフィが追撃&止め。特に詠唱をしている様子も見られず、傍から見ればいきなり氷やら斬撃が飛んでいくのだが、あれを自分に対して打たれたらとてもじゃないが太刀打ちできないだろうな等と考える。


「よし。血抜きして解体してくる」


 血抜きと解体はセラフィの仕事の様だ。待っている間にルシアに魔法について聞いてみる。


「昨日も思ったんだけど、魔法を使うときに詠唱とかは必要ないのか?」


「詠唱…ですか?それはどういったものでしょう?」


「あれ?魔法を発動する前の呪文?っていうのかな、決まった言葉を唱えないと発動しないみたいな」


「ああ…、極一部の大規模な魔法にはそういったものがあると聞いた事がありますね。魔法として起こす現象が複雑な場合は言葉に出して形にしやすくするのだとか。私やセラフィが使う魔法は単純なものなので、言葉にする必要は無いですよ」


 どうやら使いたい魔法が具体的にどういったものなのかイメージするのも大切な様だ。


 ふと思い立った俺は空に向けて手を掲げ、その先から暖かいお湯が出るところをイメージする。


「ツグミさん?どうしたんです……きゃっ!?」


 結論から言うとお湯は出た。問題なのはその勢いだ。手のひらから噴き出した水柱は天高く吹き上がり、瞬く間にルシアと俺、そして周囲を水浸しにしていく。


「ツグミさん!力を抜いて、水を止めるイメージをしてください!」


「わ、わかった!」


 全く止まる気配の無いお湯を見つめつつ、僅かに感じる魔力と思しき力の流れを止めるよう強くイメージすると、ピタリとそれは止まった。異変に気付いたセラフィの声が聞こえてくる。


「何事だ!?いきなり温い水が降って来たぞ!」


「それが…」


 魔法を使えたのは素直に嬉しいが制御できなければとても使えない。そう簡単にはいかないもんだと実感させられた瞬間だった。


 

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