第7話 ルクトの村

 山間にある小規模な集落。ルクトと呼ばれる村はそんな表現がピッタリといった印象だった。


 簡素な作りの木造住居が視界に収まる程度に立ち並んでいる。各所からは食欲をそそる香りが漂っていて、夕食には少し早い気もするがここではこれ位の時間が普通なのだろう。


「さて、着いたのはいいが見ての通りこの村には旅人もそうそう来ないので宿屋が無い。その代わり村の集会所に泊まってもらう事になるがいいか?」


「嫌な訳無いよ。屋根があるだけでもめちゃくちゃありがたい」


「そう言ってもらえると助かる。では案内しようか」


 二人に連れられ集会所へ。道中で村の人達からの視線を感じたが、セラフィが言った様に外の人間を見る機会も殆どないんだろうな。どれくらいお世話になるかは分からないが是非親交を深められたらなと思う。


「ここが集会所だ。奥にある扉の向こうに仮眠スぺ―スや手洗い場もあるから自由に使ってくれ」

 

「あ、ああ。それは良いんだけど、挨拶とかしなくていいのか?こういう場合村の偉い人に挨拶するもんだと思ってたけど」


 只でさえ人の出入りが乏しい村だ。余所者が急にきて挨拶もなしに泊まるのは如何なものだろうかと考えていると、ここまで無口だったルシアが口を開いた。


「ふふっ。村長ならもう会っていますよ。私、ルシア・ハードレットが村長です」


「え!?ルシアが?」


「まあ、見ての通り私はこの性格なので大抵の事はセラフィに任せているんですけどね」


 聞けばこの村が出来たのはここ10年程の事で、ルシアの母が移住希望者を募り一から興したらしい。父親はおらず、母も二年前に他界した為セラフィの手助けを受けながらその立場を引き継いだとの事だった。


 ルシアに反応した指輪。こんな未開の地に村を作りだしたルシアの母。これはもう同胞とやらで間違い無いだろう。


「ここに来るまで改めてツグミさんを観察させて頂きましたが、私はツグミさんなら村に滞在なさっていても問題ないと判断しました。何も無い村ではありますが、どうぞ遠慮なくお過ごしください」


「とはいえ滞在する以上は何かしらの仕事はしてもらわないとな」


「ああ、何でもさせてくれ」


「頼もしい限りだ。明日迄には私とルシアで話し合っておこう」


「ああ、あと良ければ二人にお願いがあるんだけど」


 キョトンとした顔でルシアが尋ねる。


「どうされましたか?」


「毎日少しの時間でもいいから俺に魔法を教えて欲しいんだ」


 本当に魔法が使えるというのなら早くそうなりたいと思うもの、この機に教えを乞う事にした。


「魔法ですか...それはいいのですが......」


「ツグミ。お前はどうやら神託を受けた事が無いようだな。残念だが教会へ行った事が無い者はスキルを発現していない状態...、魔法を使う事は出来ないぞ」


 神託...そういえばあの男がそんな事を言っていた。


(その辺の事情も誤魔化さないといけないか...)


 何度も嘘を吐くのは正直気が引けるが仕方ない。今は少しでも取っ掛かりが欲しい。


「魔法を使うときのコツみたいなものを教えてくれるだけでもいいんだ。何を意識してるかとか、そんなことを」


「うむ...。それでいいなら幾らでも協力しよう」


「はい。及ばずながら私もご協力させて頂きますね」


 こうしてレッスンの約束を取り付けた俺は二人とは別行動となり仮眠スペースで休息を取る事にした。ルシアとセラフィは獲物の後処理など色々と忙しい様だ。


(現地の人達と交流して、魔法を使えるようになって、それから...)


 遅れてやってきた一際強い高揚感。ワクワクが押し寄せてくるとはまさにこの事か、等とくだらない事を考えながら俺は夕食をとるのも忘れて眠りについた。



 


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