第5話 出会い
継命がアルバルムへと旅立ってから少しの後、先程まで継命がいた庭園には二人の男女の姿があった。
「やあ、クレナ。狙っていたかのようなタイミングだね。そんなに気になるなら君も話してみれば良かったのに」
「年頃の男の子よ?私が近くに居たら緊張してしまうわ」
彼女の発言は決して過剰な自信から来たものでは無かった。腰まで伸びた綺麗なブロンンドの髪、まるでそう作られたかの様なグラマラスなスタイル、あどけなさの残る綺麗な顔立ち、加えてそこにある泣きぼくろが、彼女を絶世の美女たらしめる存在感を放っていた。
更に付け加えると彼女は貫頭衣の様な布に身を包んでいるだけである為、そのスタイルの良さがこれでもかと強調されいる。継命でなくとも大抵の男は戸惑ってしまうだろう。
「それで?あなたの目から見た彼はどうだったの?」
普段の彼女は様々な世界を巡り、各地で同胞の手助けをしつつ気ままに暮らしているのだが、今日は珍しくも一人の男子高校生、継命を見るためにこの場へと足を運んでいた。
「どうと言われてもね。私は表面的な能力は見れてもその人物の潜在性や未来を見れる訳じゃない。その上で言うなら彼は極々一般的な同族だよ。何か特筆した才能がある訳でもない」
「随分とそっけない感想ね。そんな子にあのような重責を押し付けたと?」
クレアの疑問は至極当然の事だろう。幼少期より経験を積んだ訳でもなく、魔法が身近にない世界で育った継命に頼むにはあまりにも無謀な内容だった。今だ正体のはっきりとしない敵対勢力に限らず、そこらの魔物に襲われてあっさりと死んでしまってもおかしくはないのだ。
「君も知っての通り、敵の探知を逃れて仲間を探すとなると、自ずとその候補は地球、もしくはスリラヴィアの二つになってしまう」
スリラヴィア...地球でもアルバルムでもない更なる異世界にして現状では唯一呪いの影響を一切受けていない場所でもある。しかしこの世界は地表の殆どが荒廃しており、わずかな自然環境の中にも強力な魔獣が跋扈する修羅の世界と化していた。
そして今回の話の発端。同胞の保護と定住先の探索は敵の探知できない範囲から同族を連れ出し秘密裏に行動を起こす必要があった為、地球又はスリラヴィアからその候補者を見つけ出す必要があった。
「しかしスリラヴィアの同胞はあの過酷な環境であっても呪いのある世界よりはマシだという者達が大半だ。であればあの者達から貴重な戦力を奪う訳にもいかない。移住したいのなら話は別だけどね」
「要は消去法だったって事?」
「誤解を恐れずに言うならその通りだよ。仮に彼が戦えなくとも、情報の収集位は頼めないかと考えていたんだが...、一つだけ気になることがあってね」
「相変わらず勿体ぶった話し方するわねあなた。それで?」
「私が彼に渡した指輪...『隔絶の指輪』とでも呼んでおこうか。アレを彼が着けた際に妙な気配が感じ取れたんだ。あの指輪は文字通り呪いの力から本人を隔絶して守るというものなんだけど、呪いの影響が消えたと同時、私が感じた事の無い、大きな純魔力と共に彼の中から何かが解放されようとしていたんだ」
「あの子に何かが憑いていたと?純魔力ということは...祖先か、神のどちらかになりそうだけど、聞いた事ないわね」
人の思念が霊体となり他者に憑りつく事はままある。しかし神が憑いている等聞いた事も無かった。
「アレの正体については正直全く分からない。でも悪意や害意の類は一切感じ取れなかったよ。だから多少の無茶をさせてもあれがどういった存在なのか観察してみたいんだ」
同胞を保護し、彼等の安寧の地を探すというのであれば他の実力者を頼ってもいい。というより既に似たようなことはしていたのだが、この不可解な存在が継命に託された理由の大きな一因となった。
「ふーん。それで?あなたはどうするの?此方では彼の状況も迂闊に見れないんでしょ?というかその便利な指輪量産できないのかしら」
「それは現状不可能だね。元になった素材が数百年前からどこを探しても見つからなくなってしまった。どこかの世界で見つかるといいんだけど」
と、話をしながら何かを思案していたクレナがニヤリと笑う。
「という事はあなたとの連絡手段にも困らなくて、彼のサポートにも最適な人材が必要と...。居るじゃない、コ・コ・に」
「はぁ...、言うと思ったよ。私としてはクレド辺りにお願いしたかったんだけどね。継命君にいらぬ影響を及ぼしそうだ」
クレド...クレナの弟であり、姉に頭が上がらない系の真面目な男である。クレナと同じく各地を転々としつつ他者を助ける生活をしている。
「失礼しちゃうわね。とにかく、彼のサポートは私に任せて貰うわ!そうと決まれば早速準備しなきゃ」
「はてさて、継命君の何がクレナを惹きつけたのか...」
ウキウキの様子でどこかへと消えて行くクレナ。この少々はた迷惑な美女が継命と合流するのはもう少し先の話であった。
アルバルムの西にある森林地帯、町の近くに出して貰えるのだろうと、勝手に解釈していた継命は森を彷徨っていた。
「これマジでどこなんだ...。木だらけで何も見えないしどこに進んでるのかもわからねえって」
幸いにも干し肉や乾燥したパン、飲料等はそれなりに支給されていた為当面飢えることは無さそうである。しかし地図を見ても現在地が分からないため自分がどこの森に居るのかすらわからない。
「あんないい感じに送り出しておいて山に放り出すってどういうことだよ」
異世界という特殊な環境故、夜を待たずとも良くわからない生き物に襲われる危険性もある。こんな状況じゃ魔法の練習どころではない。意を決した継命は、真っすぐ歩きさえすれば街道か何かがあるだろうと歩を進めると見慣れない植物に遭遇した。
「えっ、何だこれ...キノコ?」
パッと見の形状はキノコだがカサの部分が異様にモコモコしていて何よりもサイズが大きい。カサの広さだけでも家庭用のトランポリン位はある。
「うおおお...すげえマジで異世界なんだここ。でも魔物とかじゃないよなアレ...」
本当は石でも投げて観察するのがベストなんだろうが、初めて触れる異世界要素にワクワクが抑えきれず思わず触ってしまう。
「あっ、すげえふわふわしてる。これで布団とか作ったら最高だろうなー...ガッ!?」
一瞬の出来事に何が起きたのかわからなかったが、ふわふわした感触を楽しんでいたら次の瞬間には空に浮かんでいたのである。しかも結構な勢いで吹っ飛んでいる。
「やばいやばいこれケガじゃ済まないって...!」
咄嗟に何かしらの魔法でも出せれば、と手のひらを地面にかざしてみるが当然の様に何も出ない。
「おおお何か池が見えてきた!頼むあそこに降ろしてくれ...!」
急激に勢いを失い池へと降下する。祈りが通じたのだろうか、そのままの姿勢で豪快に突っ込んだ。
「きゃあああ!?誰!顔を上げなさい!」
「ルシア!剣を!人の水浴びを邪魔するとは、賊であれ魔物であれ叩き切ってやる!」
一難去ってまた一難。九死に一生を得たと思ったら今度は裸の美女二人に殺されそうである。
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