第3話 魔法とは

「目が覚めたかな?」


 異界へ繋がるという扉に吸い込まれて数瞬の後。話しかけてきたのは見慣れない衣装に身を包んだ細身の男。中性的な顔立ちに長い黒髪、遠目に見れば女性と見間違えてしまいそうなシルエットと美形だ。

 

「色々と聞きたいことがあるだろう。私は誰で、何故君はこの世界に呼ばれたのか...そもそもここはどこなのか」


 異常事態の連続に一周回って冷静になりつつあるのだが、ここが見知らぬ土地である事は肌でわかる。季節は夏、しかも一見森の中だというのに暑さやじめっとした空気感は一切ない。

 

「うん、自身の置かれた状況は何となく把握したみたいだね。なら話は早い。申し訳ないが時間が限られているので此方から一通り説明させてもらうよ」


 男はそう言うと同時に指を鳴らし、当然の様に空中から椅子を二つ取り出した。


「おい...今のどうなって」


「ああコレかい?魔法と呼ばれるもの、その応用の1つだよ。何、君も練習すれば使えるようになる程度のものさ」


 ニコニコとしながら随分突拍子もないことを言い出す。


「魔法?意味が分からないんだが...。そんな都合の良い力がある訳無い。俺は手品を見せる為に連れてこられたのか?」


「いきなり連れてきてしまって悪いとは思ってるんだ、そう警戒しないでくれ。そうだね...、ではまず今の現象が何なのか、そこに関連する事から説明しよう。ほら座って」


 促され、向かい合わせに置かれた椅子の片方に腰を降ろす。


「まずは基本だ。君が今しがた目にした現象、そしてコレも、全ては魔力...まあ便宜上そう呼んでいるだけだけれど、その魔力を使って起こしている事だ。魔力は空気と同じで肉眼では見えなくとも世界中に漂っているものと考えてくれ」


 男はそう言いながら右手の全ての指に火を灯して見せた。


「さてここで質問。君が先程言ったように、地球には魔法を扱える人間は居なかったと、そう思うかい?」


「居ない...筈だ。そんな人間が居たんなら誰だって名前を知るレベルの有名人になってる」


 超能力が使えます。なんて外国人を時々テレビで見る事もあったが、ああいうのは大体占いや手品の様に種明かしもされている。筋金入りのオカルト信者でも無い限り信じている人は居ないだろう。しかし目の前の男は確かに何も無い所から火を出して見せた。思わず身を乗り出してしまったが腕や手元に仕掛けらしきものも見当たらない。


「残念ながらその答えは間違いだ。まあ組織や国によって秘匿されていたり、本人が隠しているみたいだから知らないのも無理は無いよ。でも君のいる世界にも少数だが扱えるものがいるという事を忘れないでいて欲しい。では使える者と使えない者の差は何だと思う?」


「使い方を知ってるかどうか?」


「半分正解と言っておこう。正確には『神と呼ばれる者達』から許可を与えられて初めて魔力というものを知覚し、魔法の使い方を頭で理解できる様になる」


 神...またしてもぶっ飛んだ単語が出てきた。この勢いだと俺が読んでいた異世界ファンタジー物が全て実在する話になってしまいそうだ。


「神がどのような存在かも気になるだろうけど今は記憶に留めておく程度にしておいてくれ。再三言うがあまり時間が無いものでね。話を進めるよ。そもそもの魔法とは、『神が世界を創造する』為に用いられた何でもありの力。地上に生物が存在出来るよう自然を操り、時には時間や空間といったものまで操作する超常の力なのさ。故に神からの許可が貰えなければその力の一端を使う事さえ許されない。そうそう、君が好んで読んでいた異世界転生物だったかな?そう呼ばれている書物にも良くあったが、この世界では成人...16歳を迎えると最寄りの教会へ行き神から天啓を得る、これが先程言った許可だね。与えられる魔法はランダムだったり気紛れに選ばれた物だったり、まあ適当さ」


 何故俺の読んでいた漫画の内容までバッチリ把握しているのか、聞いてしまいたいが恐ろしくなったのでスルーした。


「待ってくれ。じゃあ地球でもその許可を貰う事は可能なのか?」


「ふむ...その質問に対する返答は予定に無かったけれどまあいいだろう。少しだけ神について説明すると、これ等の存在は信仰によってその力を増す。その為に様々な方法で知的生命体を発展させるんだが、当然神によってその方法も違ってくる。魔法を与えるという方法は楽ではあるんだが、科学が発展しないのでどうしても地球で言う中世辺りの文明で止まってしまうんだ」


「じゃあ地球の神はあえて魔法を与えなかったと?」


「まあ地球の神は特別数が多いのも理由の一つとしてあるかもね。本来は多くても一桁なんだが、私にも何故あんなに多いのかは正直わからないかな...。でも結果として文明は凄まじい勢いで発展し約80億もの人類が存在している。これは驚くべき数字だよ」


 正直神だ仏だとそういった話には全く興味が無かったが、日本だけでも八百万の神が居るし北欧神話の神なんかも数が多かった気がする。それぞれの神が力を得るためには科学文明を発展させて人口を増やす必要があったという事だろうか。


「さて、随分説明が長くなってしまって申し訳ないがここからが本題だ。本来なら許可なく使う事が許されない魔法という力だが、君や私はその許しを得ずして魔法を行使する事が出来る」


「え?」


「君を此方へ連れてきた魔道具が言ってなかったかい?純魔力と」


 確かに言っていた気がする。あの木彫り像はそれに反応して起動したのだと。


「確かに言っていた気がする。それは魔力とは違うものなのか?」


「厳密には違わないよ。ただ...そうだね、その魔力はある一族の血を引く者だけが持つ特別なものだ」


「ある一族?」


「とある世界で神に魅入られ、人の身でありながら神と交わった者達。その子孫は神の許しなく魔法を扱い、使用する魔法も神と同等の強力な物だった言われている。そういった者達が行使する魔力を私は純魔力と呼んでいるんだ。そしてここまで聞いて薄々勘付いてはいるかもだけど、君はその血を受け継いでいる」


 正直今の今まで他人事の様に聞いてしまっていた為面食らってしまった。男の言った事が事実であれそうで無かれ、何らかの目的があってここに連れてこられたのは確かだ。なら必然的にそれ相応の理由もあるという訳で...。


「驚いているようだね。無理もない、地球にある日本という国、その中の極々平凡な両親の元に生まれた君が何故その様な一族と繋がってくるのか、次はその話をしようか」









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