第10話 逃避行
あの志麻刑事のことが気になって、葵はほとんど寝ていなかった。
「母さん、寝ていたから気が付かなかったと思うけど警察が来たんだ」
「伊東巡査がまた来たの」「違うよ。神奈川県警の志麻と名乗っていた」
「どんな人だった」「真っ青な顔色で頬がこけていた」葵の返事に向日葵の態度が一変した。向日葵は志麻刑事の言動と容貌を詳しく葵に説明させた。
「葵、今すぐに身の回り品を鞄に詰めなさい」「母さん、いったいどうしたの」
「質問は後にして。すぐにここから出なくては」向日葵のこんなに慌てた姿を葵は見たことが無かった。何か大変なことが始まろうとしていると直感した。二人の姿は横須賀中央駅から乗車した京成佐倉行きの特急電車の中にあった。
「母さん、どこまで行くの」葵にとってはこの唐突な転居は初めてではなかった。「とにかく、ここから出来るだけ離れなくては。聞いて葵、お前には生まれつき特別な才能があるの」「いったい何のことを言っているの」
「お前には普通の人間には見えない物が見える」その時、葵は微かな揺れを感じた。すぐに突き上げるような衝撃が襲って来た。葵と向日葵は前方の車両がまるで木の葉のように舞い上がるのを見た。通勤客の悲鳴が車内に充満した。
葵と向日葵の身体が宙に浮いた。そして、次の瞬間景色が180度回転したと思うと天井に激しく叩きつけられた。8両編成の特急電車のすべての車両が巨人に投げ上げられたように脱線転覆していた。
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