第9話 志麻刑事
最初の被害者はすでに火葬されていたが、二番目の被害者は不審死ということで司法解剖に回された。猟奇的な事件とテレビと新聞が大きく取り上げたこともあり、捜査には神奈川県警察本部刑事部捜査第一課が乗り出すことになった。
マスコミが取材に押し寄せたので、葵はますます家に閉じこもることになった。向日葵の職場にも取材に来るため、帰宅する頃にはすっかり疲れ果てていた。そんな慌ただしい日々の午後10時過ぎに玄関を叩く音がした。
向日葵は疲れ果てていて、音に気が付かないようだった。こんな時間に誰だろうと思い鍵を開けずにたずねた。
「どなたですか」「神奈川県警の志麻です」「こんな遅い時間に本当に警察の方ですか」「マスコミの連中がいなくなるのを待っていました。今、警察手帳を見せるので開けてもらえますか」葵は引き戸を少し開けると差し出された警察手帳を確認した。刑事らしく眼光が鋭かったが、葵が驚いたのはぞっとするほど青白い顔だった。
「少し話が出来ませんか」「もう遅いので明日にしてくれませんか」
「あなたが見たものと同じ物を見た人がいるんですよ」
「僕が見た物については伊東巡査に話しました。本当に疲れているんです。明日必ず警察に行きますから勘弁してください」開いた引き戸が閉められないように志麻刑事は左足を差し込んでいた。その爪先が異様に長い革靴は履き潰したみたいにすっかりくたびれていた。
「そうですか。それでは出直します」そう言うと志麻刑事は踵を返した。その背中は頬がこけた顔と同じように痩せこけて見えた。
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