第62話 VSアラクネ①



「巨体の割に素早いヤツだな」


「こっちだよ、どこ見てるの?」


『■■ゥゥッ!!』


「——いや、本命は俺だ」


  

 狂刃乱舞の大喝采——轟く剣戟はまるで俺たちを祝福するかのように、心地よかった。

 


「まずは一ゲージ、いただきます」



 蜘蛛上部に鎮座するアラクネの女性体へ、遠心力を加えた一閃を叩き込む。

 しかし、滑り込むようにして蜘蛛の足が刃を防ぎ、



「クソえてんだよ、舐めんな」


『!?』



 本命は、アロンダイトこっちだ。


 さらにもう一回転、体を捻り——



「くたばれ女郎蜘蛛ッ!!」



 MPを喰らったアロンダイトが脈動みゃくどうし、空気をきしませて轟いた。



『ィィィィィ——ッッ!!?』



 足で防ぐよりもはやく俺のアロンダイト右腕女性体アラクネの顔面を射抜き、血を撒き散らしながら下半身と共に後退する。


 HPゲージが二本目に突入し、



「——ようやく追いついたと思えば、絶好のチャンスじゃないッ!!」



 世奈さん率いるメインアタッカーチームが到着。


 痛みにうめき苦しむアラクネへ、炎属性の武器が四方八方から叩き込まれた。



「やっぱ世奈さんの一撃が重いな」


「見惚れてる場合じゃないよ」


「見惚れてねえし」


「ふぅん。まあいいけど。今さら一人や二人」


「だから、見惚れてないって」


「でも、赤城くんに怒られちゃうよ」


「え、付き合ってるの?」


「ううん。世奈の片想い」


「へえ」



 秒速でアラクネのHPゲージが削られていく。


 炎属性は効果てきめんのようで、俺と師匠が一ゲージ削り切るよりもはやく、二本目が終わりを迎えようとしていた。


 そこへ俺と師匠、さらにサブアタッカーを率いる古参の雅火みやびさんらも飛び込み、



『■■■■———ッッ!!』


「マズい、後退してくださいッ」



 アラクネの巨体が、周囲の人間を巻き込むようにして右に回転した。六本の鋭利で堅牢な足を遠心力で薙ぎ払いながら、加えて網目状の毒糸も撒き散らし、駒のように荒れ狂っている。


 しかし——



「二本目——」


「——もらってくよ」


「あたしがねッ!!」



 暴れ狂うアラクネの猛威にアタッカーが後退する中、俺と師匠、そして世奈さんは攻撃を掻い潜って懐に潜り込んでいた。


 やッば、こいつら。

 

 A級の千里眼でようやくアラクネの攻撃を捌き切ることができているのに。


 師匠はともかく、世奈さんのスペックもだいぶぶっ壊れているようだった。


 さすが、トップランカー。


 ランキング5位は伊達じゃない。



「ハァァァァァッ!!」


「クッソ……ッ」


「もってかれた……っ」



 俺と師匠の一撃よりも速く、炎剣がアラクネの胴体を爆ぜ斬った。


 回転を停止させられ、よろけるアラクネの下半身。HPゲージが三本目に突入した。


 そこへ交差するように、俺の拳が女性体の顎を、師匠の剣がうなじを横に一閃する。



『ィィィィィゥゥゥゥッッ!!』


「いいのが入ったな」


「もう少しで四本」



 俺と師匠の一撃がクリティカルヒットし、三本目のHPゲージが半分まで減った。



「どういう当たり判定なの、それって……」


「勘」


「嘘でしょ」



 俺は説明がめんどくさかったので、魔眼のことは隠して師匠に同意しておいた。



『ぅぅ、ゥゥ、ゥォォォォ……』



 血走り、据わった双眸そうぼうで俺たちを睨みつけながら、女性体アラクネが鳴咽と共に口から糸を吐いた。


 唾液と共に口から垂れ流される網目状の糸。それがアラクネの裸体を覆い隠し……



「うっわ、エッロ……」


「………」


「………」



 思わず声に漏れてしまった俺を非難する世奈さんと、ジト目を向けてくる師匠。


 いやだって、



「どっからどう見ても裸にあみあみのニットやん。裸体よりエロいわ!」


「……ああいうの、すき?」


「好きというか、見せられたら誰だって興奮するだろ」


「ふぅん」


「ふぅん、じゃないわよなに今度やってみよう、みたいな顔してんのそこのクソバカップル」



 なぜ俺も含まれてるんだ。



「アレはただのメッシュトップスじゃないわ。耐久値を大幅に強化する装備みたいなもんよ」


「へえ。あみあみの服ってメッシュトップスっていうのか」


「勉強になった。じゃあ、あみあみのストッキングは?」


「とってもエロいと思います」


「ふぅん」


「ねえ。おちょくってるのかしら。ねえ?」


「「!?」」


 

 俺と師匠の間を熱風殺気が駆け抜けた。


 この人、マジで殺す気で剣を振りやがった。


 冷汗で背中を濡らした俺と師匠は、アラクネに注意を向ける。



「こ、ここからはダメージが通りにくくなるってことでOK?」


「なら手数を増やすまで。OK?」


「真剣にやってよ。こっちはアンタたちバカップルと違って命が惜しいんだから」



 錯乱したようにボサボサの髪の毛を振り払いながら、アラクネ(あみあみニットver)が地をる。

 

 その背後から、夥しい数の影が胎動を始めた。



「来たわよ、子蜘蛛の絨毯爆撃——氷莉ひょうり、任せたわ」


「——りょ」



 世奈さんの号令に頷いて、第八部隊が俺たちの背から飛び出した。


 向かい来るアラクネの猛撃を器用に交わし、そのさらに後ろから降り注ぐように迫る子蜘蛛の海へ、躊躇なく飛び込んだ。



『■■■■ッッ!!』


「お兄さん、しっかり着いてきてね」


「任せろ」



 地面を穿うがちながら迫るアラクネへ、俺と師匠は迎撃体制に移った。

 



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