第61話 開戦
テレポーターに足を踏み入れた俺たちを待ち構えていたのは、荘厳でいて巨大な扉だった。
これまでのボス部屋の扉とは異なる、物々しい雰囲気。
いつものように足で蹴り開けると誰かに怒られそうな気がする。
「……フゥ。緊張してきたぜ。覚悟はできてたんだけどな……それでも体の震えが止まらねえ」
次からつぎへと設置されたテレポーターから
「けど、ビビってるわけじゃねえぜ。むしろ嬉しいんだ。あの日の借りを返せると思ったら……仇を討てると思えば、恐怖以上の熱でアガれる」
強張った顔に笑みを浮かばせる椿。額に汗を滲ませながら、精一杯強がる姿に俺も胸の奥が熱くなった。
やがて最後の一人がテレポーターから現れ、
「準備はできてる?」
紅蓮の大剣を背負った世奈さんが全員の顔を見渡した。
「ふふ。いい表情をするわね、みんな。——さあ、行きましょうか。さっさと終わらせて、ゴールデンウィークを満喫しましょ」
「過ごす相手がいないと寂しいね」
「アンタ、戦闘中うしろにも気をつけなさいよ」
割とガチなトーンで世奈さんが師匠を脅した。
師匠はニヤニヤしながら蒼白の剣を右手に、円環状に
「え、ズルい。それ俺がやりたかったのに……」
「どこで張り合ってんだ、おまえ……」
重く、鈍くゆっくりと開かれる扉。
その向こう側に広がる円形のフィールドから、強烈な
「行こうか、湊くん」
「ああ——行こうか、師匠」
微笑む師匠。言われるよりも先に地を踏み締めていた俺は、師匠と世奈さんの間を割ってボス部屋に飛び込んだ。
左右を蝋燭が照らす長い一本道。
その薄暗い向こう側から、なにかが飛来してきた。
「——手厚い歓迎、感謝するよ」
それは蜘蛛の糸だった。魚を乱獲する際に扱うような
跳躍するしか
俺は心を躍らせながら、迷いなく跳んだ。
「乗ってやるから捕まえてみろ」
瞬間、やはりというか空中にも網目状の糸が飛んできていた。数は四つ。
しかも時間差をつけて放っているのか、
加えて、下を通り過ぎていった糸とは違い、禍々しい紫色を湿らせている。
触れたら毒でやられそうだな。
そんなことを思いつつ、俺は腰から『人斬り・戒』を抜いた。
「——ハァッ!」
中央の網目を複数切り裂き、身を捻って体を通過させる。
続けて刀を滑らせ、俺の体が糸に触れない程度に糸を裂いていく。
「———」
『——ピギャッ!?』
地面に着地。
すぐさま人斬りを横に
それは蜘蛛だった。
三十センチ以上はありそうな、小型犬と同等くらいの蜘蛛がびっしりと壁と床を埋め尽くしてこちらに迫ってきていた。
「おいおい、子蜘蛛の登場はもう少しあとじゃなかったのか?」
「不測は大歓迎。でしょ?」
「俺と師匠はな」
「ここは
追いついてきた師匠の一閃が子蜘蛛をまとめて蹴散らし、モーゼの十戒がごとく道が開かれた。
その間を、俺たちは疾走する。
「……アレか」
通路を抜けた先。
円形のフィールド上空——巨大な蜘蛛の巣より、逆さまにぶら下がったソレが
やがて重力に従って落ちてくる巨体。
軽い揺れを引き起こして着地したソレは、ミーティングで確認した写真そのままの姿だった。
黒く
ボサボサに伸び切った黒髪の隙間から、気色の悪い複眼がこちらを視ている。
『………』
今にも語りかけてきそうな雰囲気だが。
「……約束、忘れてない?」
「もちろん」
「よかった。プール付きのラブホ、予約したから」
「それは——」
非常に、燃えますね。師匠。
「早く終わらせて、はやく二人っきりになりたい」
なかなかどうしてこの子は、こんなにも俺を興奮させるのか。
「じゃあ、やろうか」
「うん」
互いに得物を構え、渦巻く熱狂を刃に乗せて。
示し合わせたかのようなタイミングで、アラクネへと斬りかかった。
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