第49話 そして、考えるのをやめた。

「初出勤で遅刻はヤバすぎる……!」



 俺は全速力で歩道を走っていた。

 目的地は深江駅地下ダンジョン前。


 きょうから俺は、師匠——もとい、キズナ社長の元で、、雇われることとなった。


 探索士にプロとかあるのかは知らんけど、六千万もらえるならなんだってする。

 ボスだって一人で攻略してやるぜ。


 自殺行為だとウララに怒られそうだが、万が一の時は……やる。



「三億……三億……!」



 最愛のウララを助けるためなら、俺は悪魔にだって魂を売ろう。

 そうじゃなきゃ、探索士になった意味がない。

 


「——見えてきた」



 前方に深江駅が見えてきた。時間を確認すると、08:50。

 なんとか五分前には着けそうだった。


 走る速度を緩める。レベルが上がったこととスキル:身体強化《B》のおかげで、家から駅まで歩いて一時間かかっていたのに、今では走れば五分でついてしまう。


 今の俺は、車より速い。


 とはいえ、予定ならお昼ご飯をスーパーで調達したりステータスを確認したり、マウリちゃんとお話ししながらのんびり歩いて向かうはずだったのだが……。



『も、も、う行く時間ですか……?』


『そ、そ、そうです、ね……急がないと、おく、遅れちゃう……』


『……ふぅ、っ、ふぅゅっ』


『じ、じか、んんぅ、ないです、よ……ぉぉっ』


『はやく……はやく、出しちゃえ……ぇ、おぼぉぉっ!』


『い……行ってらっしゃい……き、気をつけてくださいね……』



 つい先ほどのアクシデントが脳裏によみがえる。


 あかん。


 昼ドラとかでやっていそうな最低な行いのはずなのに、思い出しただけで息子が反応してしまう。



「悔しいけど相性が……いいんだよな」



 ウララとはまた違うイロ快感あじを、柚佳ちゃんから明確に感じる。

 もらえる経験値量もウララより若干多いし。

 興奮の度合によるものなのか。あるいは相手によって変わるのか。

 サンプル量が少ないからなんとも言えないが……

 


「——師匠とはどうなんだろ」



 と、口が無意識に動いて。

 俺は、俺の発した言葉に驚いて足が止まった。


 

「………」



 相当、やばい領域に足を踏み入れてないか、俺。

 ウララに刺されても文句は言えんぞ。


 ここ最近、性欲がヤバいなんてレベルじゃなくなっている。


 少し前までなら一人で致して我慢することができたが、一度ウララの味を知ってから……あるいは、『淫魔』から『覚醒淫魔』に進化してからか、歯止めが効かなくなってきていた。


 

「……対策しようにも、回数を増やすしかないよな……」



 ウララは熱でしばらく相手してくれない——というかその前に、ウララにはあまり負担をかけたくない。魔石病の進行を速めてしまう可能性もあるし。



「あー、そう考えると柚佳ゆかちゃんという存在がマジでありがたいんだけどなあ……!!」



 呼び出したらすぐに来てくれる都合のいい女は、本当にクズな考えだけど今の俺からすれば救いだった。


 ただ、そのただれた関係がいつまで続くのか。

 いつか、必ずウララにはバレてしまう。

 それならもういっそ職業のせいにしてぶちまけてしまおうか。

 

 いやでもウララと柚佳ちゃんの関係がこじれたら困るし……。

 最悪、あの二人が殺し合うなんてことも……。



「ラノベみたいに無条件でハーレム許容してくれる世界にならないかなあ」



 ……ていうか、深江市はほぼほぼ日本であって日本じゃない無法地帯だから、一夫多妻でもよくね?



「税金だって深江市民は払ってないし。それは関係ないか? 知らんけど」



 兎にも角にも、



「……妊娠したら、そうやって開き直ろうか」



 少子化だし、きっと深江市の人間は許してくれるはず。


 魔物によって人口はだいぶ減っているし、なんなら今、深江市はベビーブーム真っ盛りだとウララが言っていた。


 子どもは宝。サッカーチーム作れるくらいにはたくさん子作りしようね、お兄ちゃん——なんて言ってたのも思い出した。けど、



「言っていたとうの本人が、俺と柚佳ちゃんとの子どもを否定しそうだな」



 ダメだ。俺も柚佳ちゃんもその子どもも危険に晒されそうな未来しか視えない。


 仮にウララを説得できたとしても——あの親父が黙っているはずがない。そして柚佳ちゃんの両親も。

 

 二人とも絶対に幸せにしますから、とかどれだけ本気で頭下げても俺はタダではすまないだろう。



「——よし、考えるのはやめよう」



 最悪、深江市の結界が俺を守ってくれる。ウララはもう妊娠させて大人しくさせよう。うん、もうどうにでもなれ。



「まずはダンジョン攻略だ! めんどくさいことは生き残った後で考える! よし! 最後にステータスだけ確認しとくか!」



 投げやり気味に思考を遠くの方に捨てて、俺はステータスを表示した。



――――――――――――――――――――


 名前:百女鬼 湊

 Lv.55

 職業:覚醒淫魔

 称号:淫な夜会の主


 HP=5500/5500(+300)

 MP=2200/2200(+300)

 ATK=2450(+800)(+300)

 DEF=2440(+300)(+300)

 MAG=2346(+300)

 AGI=2451(+800)(+300)

 LUC=2348(+1000)(+300)(+300)(+100)

 成長値=10(限界値)

 固有スキル:罪色欲之王アスモデウス《EX》

 職業専用スキル:性魔術《B》、淫我《A》、絶倫《B》、精強《B》


 スキル:運命の車輪、豊饒の角フォルトゥーナ・アルマテイナ《S》

     隠蔽《S》、餓狼の魔眼《S》、千里眼《A》、痛覚耐性《B》

     身体強化《B》、鎧冑の如く《D》、剣術《C》、胆力《C》

     気配感知《C》、危機察知《C》暗順応《F》


 装備スキル:黒鳳凰の唄イルセト・バース《S》、飢えた血《A》

       聖母の微笑《B》《共鳴:2》


 一括装備スロット

  →メイン装備:A級・黒腕のアロンダイト(左)

  →サブ装備1:B級・戦闘用強化義手・改

  →サブ装備2:D級・プロテインシェイカー

  →頭装備:なし

  →首装備:なし

  →背中装備:魔人の憤り(ローブ)

  →胸装備:S級・黒鳳凰イルセト

  →腕装備(右):B級・聖母の祈り(指輪)

  →腕装備(左):B級・聖母の戒め(腕輪)

  →腰装備:なし

  →足装備:なし


 スキルP:40


――――――――――――――――――――



 変わった箇所は主に三つ。


 職業:淫魔が『覚醒淫魔』に進化したこと。


 これによって成長値が+1され、ステータスが大幅に伸びた。全ての職業専用スキルもワンランク上がり、夜戦でのレベル上げが強化された。


 二つ目は称号が淫魔の末裔から『みだらな夜会の主』に変化したこと。


 これにより性行為によって得られる経験値が三倍から五倍に変化した。成長値は×2のまま。


 最後の三つ目は、マウリちゃんから成長剤を全て買い取ったことにより、成長値が天井を迎えたこと。


 かなり——かなり高くついたし、マウリちゃんのほくほく顔がかわいいはらたつが、ステータスの上がり方が半端ではなかった。


 今、レベルが1上がればHPとMPを除くステータスに+100される。獲得経験値五倍と性戦限定でレベルが上がりやすくなっているし、プロに恥じない高ステータスだと自負している。



「プロかぁ……」



 なんかよくわからないけれど、プロって言葉だけで俺はきょうも行けそうな気がした。

 

 まずきょうの目標は、マウリちゃんにむしり取られた分以上を稼ぐ。

 大体五〇万……無理か?


 いや、今の俺ならいける。


 それに挑むのはダンジョン最前線だ。強い魔物のドロップ品ほど高値で取引されているのはどの世界ゲームでも定石。たくさん狩ってマウリちゃんに高値で売りつけ、ギルド依頼をバンバンまわしてすぐに三億稼いでやる。

 


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