第五章『七〇階層ボス攻略戦前夜』

第48話 義妹と嫁と愛人と

「38.8°C……しばらく寝てないとだな。ウララ」

「うぅ……頭がぐらぐらするよぉ」

「薬ってあったっけ?」

「熱冷まし、さっき飲んだよぅ……」



 月曜日。四月二十四日。


 今週末からゴールデンウィークが始まるというこんな時に、ウララは高熱を出して寝込んでいた。



「ゴールデンウィークまでには治したいよぉ……うぅぅ」


「きょうは学校やすめよ?」


「い……いつの話してるのさ……。それにあったとしても卒業してるし」


「結婚して子ども産める年齢だな」


「旅行先でたくさんイチャイチャしてお兄ちゃんの子ども作りたかったのに……残念」


「それまでに治せば良いだろ」


「うん。えへ、へ……うぅ……ちょっと話しただけで、疲れちゃった……。ごめん、ねえ……」


「……重症だな」



 ダルそうに目を瞑るウララ。

 唇の端から「うぅぅぅ」と苦しそうな声が何度も漏れる。



「体調良くなったら、どっか旅行でもいくか」

「ぅ……ん……ぅ」



 ウララは薄く頷いた。


 旅行……とは言ったものの、とうぜん場所は限られてくる。


 現在深江市は、謎の結界のようなモノで覆われ隔離されている。外に出ることも、内に入ることもできない。


 なので必然と、旅行先は市内になるのだが、観光地の少ない深江市に旅行できるようなところは少ない。確か温泉が一つだけあったような気もしたが、市内だしな……近くの銭湯で十分な気がするから気乗りはしない。


 

「なんか良いとこあったかなあ」

『——探索士さま! 08:15になりました! 家を出る時間ですよ!!』



 タイマーが作動し、目の前に現れた横長のウィンドウから受付嬢マウリちゃんが顔を覗かせた。


 たゆん、と大きく開かれた胸の谷間が踊る。

 手を伸ばせばその肉厚を感じられそうなほどに、マウリちゃんが近い。

 そしてきょうもかわいい。



「アップデートしてから尚更、俺はマウリちゃんを二次元ではなく一人の女の子として見るようになってしまったぜ」


『そういえば聞きましたよ、探索士さま! 今度プロ契約されるそうですね! 年棒いくらですか!? 一億はいきますか?!』


「マウリちゃんとは体の関係だけがいいな。金かかりそうだし」


『最低ですねっ!! 年収三億以下の男に抱かれるほどマウリは安くありませんし!』



 めちゃくちゃいい笑顔で罵倒された。

 そして相変わらずの守銭奴。金の亡者め。炎上しろ。


 先日のアップデートを施してから、マウリちゃんとはスマホを介さなくとも会話ができるようになった。

 

 いったいどこの誰がアップデートしてるのかとかは知らないが、エロいビジュのマウリちゃんをより近くで感じられるのはありがたい。口は悪いが。


 一万くらいなら払えるから、水着コスチュームとか欲しいぜ。



「一万あげるから脱いでってお願いしたらどこまで脱げる?」

『マウリはそんな安くないですからね?』

「じゃあ十万」

『んー、スカートくらいなら脱げます』

「よし、きょうもたくさん稼ぐか」

『動機が不純ですねっ!』



 いつか、マウリちゃんが仮の肉体を得て俺に会いにきてくれる妄想をしながら、俺はウララの頭を撫でた。



「じゃ、ウララ。初出勤してくるわ」

「んぅ……ごめんね。ついていってあげれなくて……」

「仕方ないだろ。最近無茶ばっかしてたんだから。この際だからゆっくり休め」

「うん……。お兄ちゃん……」



 ウララは不安そうに顔を歪めて、手を伸ばした。

 その手を両手で握る。



きずなさんがいるからって、油断しないでね。ダンジョンの最前線は、何が起きるかわからないし……」


「ああ。なんなら十一階層から未知だからな。気をつけるよ」


「七〇層のボス攻略は、日曜日だよね? その前に行ったりしちゃ、ダメだよ?」


「さすがに一人じゃいかんぞ。強くなったからって、師匠ほどじゃないし」


「うぅぅ……お兄ちゃんと離れたくないぃ」


「俺もだよ」



 熱で赤いウララの顔に顔を近づける。



「お、にいちゃ……風邪、うつるよ……?」

「その時は看病してくれ。ナース姿で」

「うん……」



 少し長めのキスをしてから、



「じゃあ何かあればすぐに連絡しろよ? 飛んで帰るから」


「うん。——あ、でもお兄ちゃん居ない間、柚佳ゆかが看病しに来てくれるんだ」

「え」


「たぶん、もう少ししたら来ると思うよ。だから心配しないでね——どうしたの、お兄ちゃん。顔、引き攣ってるよ?」


「あ、ああ、いや……じゃあ鍵開けといた方がいいか?」


「合鍵渡してるから、勝手に入ってくるよ」


「……合鍵。……そ、そっか。わかった。とりま、行ってくるわ」


「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん……っ」



 最後に触れるだけのキスをして、俺は自室を出た。

 なぜ自室かというと、



「お兄ちゃんの匂いに包まれていれば細胞が活性化されて風邪がはやく治る」



 という、謎理論によるものだった。


 寝巻き代わりに着ているのも俺のTシャツで、匂いが変わるからと下着すらつけないどころか、スマホすら持ち込まない徹底ぶりだった。



「——お、お、おはようございます……! う、ウララ、げ、げげ元気そうでし、た……?」



 二階から一階に降りると、エプロン姿の柚佳ちゃんがリビングから顔を覗かせてきた。

 ウララの言う通り、合鍵を持っているようだった。

 


「おはよう、柚佳ちゃん。悪いな、看病しに来てもらって」

「い、いえ……み、湊さんにもあ、会えるから……い、一石二鳥で、です……」



 相変わらずおどおどしながらも、そんな大胆なことを言ってくる柚佳ちゃん。俺はすぐに玄関へ向かおうとしたが、ギュッと服の端を握られ、柚佳ちゃんに阻まれる。



「も、も、う行く時間ですか……?」

「ああ、急がないと」

「そ、そ、そうです、ね……急がないと、おく、遅れちゃう……」

「柚佳ちゃん。まずいって」



 本当に、時間ないんだから。

 ブラウスのボタンを外し、着崩して胸の谷間をみせつけてくる柚佳ちゃん。


 小柄で華奢な割に胸だけはそこそこおおきくて、妙に強い色気を放っている。

 柚佳ちゃんはそのまま両膝をつき、エプロンをめくって口に咥えた。

 エプロンの中身から、大事なところが全く隠されていない卑猥な下着が露出されていた。



「……ふぅ、っ、ふぅゅっ」

「……っ」



 懇願するように、鼻息を荒くしてじっとなにかを待つ柚佳ちゃん。

 俺は一瞬だけ時計を確認してから、



「声、抑えろよ」

「っ」



 柚佳ちゃんを遠慮なく、乱暴に抱き寄せて唇を奪った。

 必死に声を押し殺し、身をよじらせながら快楽を貪る柚佳ちゃん。

 どちらが受けだとか責めだとかという概念はなく、互いに喰らい合うように絡み合っていく。


 

「じ、じか、んんぅ、ないです、よ……ぉぉっ」

「……ッ」

「はやく……はやく、出しちゃえ……ぇ、おぼぉぉっ!」



 時間と、もしかしたらウララが降りてくるかもしれないという緊張感、そして耳の奥まで刺激を与えてくる卑猥な声と舌の感触に急かされて、俺は柚佳ちゃんの奥に押し込むように射出した。


 レベルが2上がる。

 十秒ほどぐったりと抱き合ってから、俺はすぐに柚佳ちゃんから離れた。



「い……行ってらっしゃい……き、気をつけてくださいね……」

「……ウララを頼んだ」

「は、ぁい」


 

 ソファの上でぐったりと倒れる柚佳ちゃんに背を向けて、身だしなみを整えた俺は急いで家を出た。

 


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