第40話 VSランキング9位 ①
『百女鬼兄妹からのお知らせ。
予定通り、本日の配信は——ランキング9位、逢木鬼ウユカを病院送りにしてみた。となります。
ヤツが深江駅地下ダンジョンに現れたら配信をはじめます。みなさん、応援よろしくお願いします!』
『ついにリベンジの時が来たか』
『本当にやるの? てか勝てるのか?笑』
『やめとけ殺されるぞ、そんなことより妹ちゃんとイチャラブ希望』
『死亡おつ』
『リカちーのチャンネルから来ました。私も被害を受けたので、仇討ちお願いします』
『同じくリカちーから。きょうは探索しないで応援してます。僕の分まで殴ってください』
『なぜリカちー信者がここに』
『深江駅ダンジョンを
『俺レベル70探索士。現場で高みの見物を決めにいく』
『キズナ・カンパニーは? そういう喧嘩ごとに敏感じゃなかったっけ?』
『きょう休みらしいぞ』
『出家したタコ:1000¥
とりま、俺はおまえに賭けるよ。頑張れ』
『勝ったら一万投げるわw』
『二次災害以来の大イベントでオラ、ワクワクすっぞ!』
*
『——お兄ちゃん。聞こえる?』
「ああ、良好だ」
片耳に嵌めたワイヤレスイヤホンからウララの声が聞こえてくる。
『どう? 準備運動はできた?』
「そうだな。片っ端から魔物を潰してるから、いい肩慣らしになってるよ。調子もいい」
『ちなみに、いま何階層?』
「さっき一〇階層についた」
『え、はや……!? まだ潜って十五分しか経ってないよ!?』
「そうか? 結構ゆっくり走ってきたんだが」
『……。ボスはこれから?』
「いや——」
『ブォラああぁぁぁ!!!?』
「——いま倒した」
宿敵オーク・ディザスターの顔面に義手を叩き込む。
邂逅一番のこの一撃で、オーク・ディザスターのHPが一瞬で消失。ポリゴン状となって溶けた。
トラウマとか、吹っ飛ばされた右腕が痛むかなーとか危惧していたが……案外、なんてこともなかった。
『お兄ちゃんが強くなりすぎてこわいよ……』
「おまえが俺をここまで昇華させたんだぞ。責任とれ」
『まさかお兄ちゃんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ……もちろん、責任取らせていただきます』
「当たり前だ。……それで、そっちの準備はできたのか?」
『うん、バッチリ。さっき協力してくれる配信者の皆さんが潜ったよ』
「それにしても、リカちーとか有名な配信者、よく協力してくれたな」
『最前線でカメラまわせば視聴率取れますよーって言ったらなんでも協力してくれたよ。配信者なんて視聴率命だからね。こんな大イベントは間近で観たいだろうし、いい再生数稼ぎにもなる』
「俺のリベンジ戦はエンタメってわけか」
『世界から見たらね。さっそくトレンドになってたよ。テレビでも取り上げられてたし、三日前からさっそくテレビ会社の人からSNSで連絡来てた。生配信の映像を全国で流してもいいですかって』
「……やべ。緊張してきた」
『負けたら盛大な恥晒しだね!』
「くそ……俺でビジネスするなよ大人ども!」
『まあ腹括るしかないよ。今さらやめられないんだし。木原さんのためにも、ぶん殴ろう』
「ああ、そうだな」
それに、俺の知名度が上がれば生配信の視聴率も増えるはず。そうすれば投げ銭だってたくさん集まる。相乗して動画の再生回数も増えるしチャンネル登録者だって増える。告知だけで千人も登録者数が増えたんだ。もし俺が、ランキング9位の男に勝つことができれば……。
「九億だ」
『え?』
「半年以内に九億稼ぐ」
『まさか、木原さんの分まで……?』
あらゆる病、欠損を治すことができるのなら。
おっさんを蝕む薬の作用だって消せるはずだろ。
『それは、お人好しすぎだよ』
「けど……」
『うん。わかってる。わたしはお兄ちゃんに協力するよ』
イヤホンの向こう側で苦笑するウララの顔が浮かんだ。
『ところで、お兄ちゃん』
ウララの声質が変わる。
同時に、イヤホンの向こう側で空気が変わったのを感じた。
おそらく、ヤツが現れたのだろう。
遠く離れているというのに、肌がピリピリするような感覚に襲われた。
『ステータスとかスキル、装備の確認はできた?』
「ああ、いま着けた」
『うん? 待って、今まで装備つけてなかったの?』
「肩慣らし気分だったからな。変に耐久力削られたくなかったし。……つっても、掠りすらしなかったが」
『ちょっと前に探索士を始めた人間とは思えない成長率だね。きっとそれが、本来のお兄ちゃんのスペックなんだろうね』
「さあな。運がいいだけだろ」
あの時、ゴブリンから獲得した
『い、い、行くよ、ウララ! し、しっかり掴まってて!』
『おねがい、
「ああ。一〇階層で会おう」
『がんばってね。勝とう』
『ご、ごごご武運を……っ!』
一旦音声が切れる。
それと同時に、複数の人が一〇階層に集まってきた。
「本日の主役、発見っ♡」
「り、リカチー……」
相変わらずのノーブラで
きょうはあの地味目なアシスタントは連れてきていないようだ。
「終わったら一番でコラボしてね? 勝っても、負けてもおもしろそうだからっ♡」
「あ、ああ。了解っす……」
「じゃあがんばってね〜♡」
やっぱり性格悪そうだな、あいつ。
でも、顔とスタイルはいいよな……。
「いやいや、今考えるのはやめよう」
意識を切り替える。
道中に魔物が居ない分、下手したら五分でここに到着するだろう。
「……スゥ」
深呼吸を繰り返しながら、意識を周囲に向けてみた。
この場に集まった配信者たちは皆、円形の観客席でまばらに撮影準備を始めていた。
オーク・ディザスターが待ち受けるここ一〇階層のボス部屋は、円形闘技場の様式を模している。
五メートルほどの高さがある観客席ならば、安全に俺たちの戦う姿が見えるってわけだ。
だからこそ、この場を指定した。
「………」
次は己に意識を集中させる。
想像していた以上に、落ち着いていた。
けれど、体はそれ以上に熱い。
「やれる」
俺なら、やれる。
そう言い聞かせて、俺は目を開ける。
瞬間。
『———』
ゾワリ、と——その場の誰もが息を呑むほどの
「来た」
ヒリヒリと痛いほどに伝わってくる闘志。
隠そうともしない殺意と狩人の気配が、直後弾けるようにして扉を突き破った。
「——オイ、クソ雑魚」
纏う紅。双剣が怒り狂うように赤を描く。
粉々になったボス部屋の扉を掻き消すように、獣が疾走した。
「前に言ったな——次は殺すってよ」
獰猛な獣の
一ミリ足りとも緩めぬ超疾走の剣撃——入り口から三十メートルは離れていたはずなのに、そいつはもう、すぐ目の前で剣を振るっていた。
「オレの前に立ってんじゃねえよ、雑魚が」
「——そうか」
呟いて、
「言いたいことは、それだけか?」
「———!?」
振り抜いた義手の一撃が、逢木鬼の頬を薄く裂く。
すれ違いざまのカウンター。
首だけを後ろに向けて、俺は盛大に口角を釣り上げた。
「大したことねえな、ランキング9位」
さあ、怒り狂え。
本気のおまえじゃないと、意味がない。
「て、めえ——」
「喰うぞ。骨の髄まで」
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