第38話 新生

「俺の親父……つまりおまえにとっての祖父じいさんが、ウララちゃんの曾祖父さんに助けられたんだよ。その縁がなければ百女鬼俺たちはいま存在していないし、ビジネスで儲かることもなければこんな屋敷に住むこともなかった」


「へえ。すごそう」


「すごそう、ではない。これが当たり前ではないということ、そして彼女の祖先がいなければ俺たちが存在していなかったことを理解しろ」


「りょ。んで、なんでそんな命の恩人をうちが育てることになったんだ?」


「……ウララちゃんの両親が事故でな。可哀想なことに、この歳で天涯孤独となってしまったそうだ。ほかの親族とも連絡がつかない。噂では、なにやらやってはいけない禁忌とやらに触れて祟られた……みたいな話が出てくる始末」


「禁忌……? 洒落怖にありそうな設定だな」


「本当かは知らん。が、恩を返すチャンスだと祖父さんが俺に連絡を寄越した。俺も世話になったことがあるしな」


「べつにいいけどよ。それってうちにも被害ないのか?」


「呪いだろうがなんだろうが、正面から潰していくのが俺たち百女鬼どうめきだろ」


「さすが、世界が恐れた元傭兵」


「今じゃ、愛人三人に囲まれて幸せに暮らす地方社長だぜ」


「嫁にとんでもない慰謝料払わされてなかったら、愛人に逃げられることもなかったのにな」


「だからそれでも理解してくれてる愛人が三人も——」



 それからしばらく無駄話が続き。



「とりあえず、ウララちゃんは俺たちの命の恩人。で、彼女を守るのがおまえの使命だ」


「使命って……なんか大袈裟だな。暗殺者にでも狙われてんのか? 

 ていうか、守るなら親父だろ。一家の大黒柱なんだから」


百女鬼は地主で金持ってるからな。身代金目当てで誘拐されるかもしれないだろ。それに成長すればするほど、きっと美人になるぞ。ちょーかわいいぞ。自慢の娘だ。あと、俺はビジネスと女遊びで忙しい」


「頼むから犯罪だけは犯さないでくれよ。アンタ、見境ないから」


「だから、おまえが守れ。別に結婚しろって言ってるわけじゃない。いつかウララちゃんのことを本気で想い、死んでもいいから守りたいと言ってくれる男を見つけ出すまで……それまでおまえが守れ」


「へいへい」


「ま、そんな男ができたら俺が殺すけどな!」


「へいへい」



 親父の目が笑ってなかったから、本気で言ってんだろうな。

 

 薄くなっていく意識。

 浮上していく感覚。


 懐かしい夢を、みた。





「——あ、ごめんね。起きちゃった?」

「ん……ウララ」

「うん。ウララだよ……えへへ」



 目が覚める。すぐそばには、俺に絡みついた裸のウララがいた。

 まだ外は暗い。感覚的に、三時くらいか。

 


「まだ起きてたのか?」

「んーん。さっき起きたの。なんかね、懐かしい夢をみたんだ。お兄ちゃんと初めて出会った日の夢」

「……そっか。奇遇だな」

「え? あ、ちょっと……っ」



 ウララの唇にキスをして、そのまま首筋に顔を埋めた。

 くすぐったそうに身をよじるウララの鎖骨と、胸に唇を強く押し付けてキスマをつけた。



「あー……。胸はいいけど、鎖骨は見られちゃうかもだよ……」

「日本列島みたいだな」

「もう、ばか」



 軽く小突いてくるウララ。

 そのまま見つめあって、俺はウララにまた覆い被さった。



「お兄ちゃん……また、するの?」

「ダメか?」

「だめじゃないけど……うれしいけど」



 ウララは、寝て回復した俺のビンビン丸を照れながら見て言った。



「……ぜ、絶倫すぎない……? もう十回は出してるよね……」

「俺も、こんな出してまだ足りないのは初めてだ。相性がいいんだな」

「うぅ……ばか。そんなレベルじゃないよ、えっちな漫画の主人公じゃないんだから……!」



 すぐ妊娠しちゃいそうだよ、なんて言いながらウララは俺を受け入れた。

 

 それから朝日が昇るまで五回ほど発射し、ウララは痙攣しながら眠りについた。



「綺麗だ」



 窓から朝日を見つめがら、そんなことを呟いた。


 清々しい朝だった。

 とても清々しい。

 まるで生まれ変わった気分だった。

 

 明らかに睡眠時間は足りないはずなのに、昨日まで襲っていた筋肉痛や疲労感がまったくなかった。



「ウララとの相性が凄まじかった……ってレベルじゃ、確かにないよな。これもスキルの影響かな……」


 

 そういえばと、当初獲得したスキルの面々は性行為で本領を発揮するようなものばかりだったのを思い出す。


 ようやく出番が来て張り切ったって感じか? 知らんけど。

 


「さて……気分いいし、あいつぶっ倒す前に朝練でもいくかな」



 うつ伏せで力尽きているウララに再度欲情してしまう前に、俺はシーツを被せた。

 


「そういえば、ステータスの確認がまだだった」



 少し前に、ウララはこんなことを言っていた。


 俺の保有するスキルは、おそらく実際の性行為に反応するのではなく、持ち主の性的興奮度合に反応しているのではないか、と。


 つまり、挿入するだけが性行為ではなく、それを含めた前戯だったりも全てが含められる。


 だからこれまでレベルを上げることができた。

 が、今回は、これまでとのわけが違う。


 

「正直、かなり興奮したしな」



 反動があろうとも、歯止めが効かなくなっての連続お発射はどれだけ調子が良くても二回が限度だった。

 

 しかし……

 


「だいたい十五回……俺、男優にでも転職した方がいいのかもしれない」



 なんてことを言いながら、俺はステータス画面を開いて——唖然した。

 


「なんだ、この成長率……!?」



 もしかして、もしかしするんじゃないだろうか。

 

 

「これなら……ッ」



 このステータスなら。

 

 ——あいつに、勝てる。



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