第36話 ふたりの夜 2/2
「ん……っ、も、もっと……」
離れた唇が、すぐに引き戻される。
重ねるだけ、触れるだけのキスを何回も繰り返しているうちに、湿ったものが俺の唇をこじ開けた。
俺は、ウララを壁に押し付けてそれを受け入れた。
「ぅぁ、おに、んんぅっ」
苦しそうに身をよじるウララ。
顔を真っ赤にして、今にも倒れてしまいそうなウララ。
かわいい。
俺は舌を絡めながら、ウララの胸に触れ——
『探索士さま! 着信です! 探索士さま! 着信です!』
「「………」」
『無視しないでください! 電話ですよー、重要な要件かもしれませんよー!?』
「………」
「……はぅ、ぁっ」
『探索士さまぁぁぁっ!!? どぉぉぉぉして出てくれないんですかぁぁっ!?』
「………」
「……。……お兄ちゃん、出ないの?」
「………」
『無視は重罪です!』
俺は生まれてはじめて、マウリちゃんに殺意を抱いた。
ウララから離れてアイテムボックスに入れておいたスマホを取り出す。
ちくしょう、マナーモードにしているはずなのに。
アイテムボックスに入れてあるからか?
てか誰だよ、マウリちゃんが着信教えてくれるように設定したヤツ。
……いや、俺だったわ。
「お、おに、お兄ちゃんに電話かけてくれる人、わたし以外にいるんだね……っ」
俺もびっくりだ。
後ろでしゅる、しゅるっと布が擦れる音がした。
なんとか理性を振り絞って、俺はスマホに視線を向けた。
着信先は……師匠だった。
『もしもし? お兄さんのスマホですか?』
「……そうですけど、どうかしたのか師匠」
『頼まれてた件だけど』
「頼んでた……あ」
『
そそくさと、逃げるように風呂場に入って行ったウララ。
シャワーの流れる音。
曇りガラスに映るウララの肢体に、俺は生唾を飲み込んだ。
『もしかしてシャワー浴びるとこだった?』
「いや……教えてくれ。次はどこなんだ?」
『昨日はゴールドマウントジム。きょうは市役所。これまでのルーティン通りなら、明日は……』
「深江駅か」
『うん。よかったね。ホームで』
「ああ」
電話越しで頷く。
決戦は、できれば見知った場所でやりたかった。
日にちはずらしたくない。
時間を掛ければかけるほど、熱が弱まっていく気がしたから。
だから、好都合。
やはり俺は、ここぞというときに運がいい。
『それだけだから。きょうは、やることやって明日に備えてね』
「や、やること……?」
『少しでも強くなるために、やらなきゃいけないことがあるでしょ』
「あ、あの、もしかして師匠、俺たちの配信みてたりします……?」
『そのために、きょうは早く帰したの。じゃ、楽しみにしてる』
「………」
通話が切れる。
俺は頭を抱えた。
視聴者がこんな身近にいたなんて……!
「……お兄ちゃん」
「ウララ……」
「早く、来てよ」
「———」
ドアの隙間から顔だけを覗かせて、ウララが懇願するように言った。
俺は、下にタオルを巻いてドアを開ける。
ウララは、浴槽の中で体育座りをしていた。
「お……お兄ちゃん……タオルの中に、なにか入れてる……?」
あわわわ、とテントを張るそれを凝視して狼狽えるウララ。
俺はもう吹っ切れて、椅子に座った。
「か……体、洗ってあげる……よ」
「……ウララ」
「な……なに?」
「いいんだな?」
「へ——!?」
俺の問いかけの意味を理解したウララは、俺から視線を外して、また合わせて。
困ったように笑ったり、嬉しそうにしたり、恥ずかしさを隠すようにしてやがてお湯の中に沈んでいった。
「ぶぶぶぶぶ」
「おい、大丈夫か?」
「ぶぶぶぶ」
「ん? なんて言ってんだ?」
「ぶぶぶ……」
明後日の方向を見ながら、水面からわずかに浮かした唇が甘く発した。
「べ……ベッド……いこ」
「……っ、わかった」
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