第三章『新生』
第25話 破滅への足音 1/3
柚佳ちゃんがパーティに加入してから、早くも一週間が経った——。
階層は一〇階層に到達し、三日前の時点でボス部屋の前までたどり着いた。
この先には『オーク・ディザスター』と呼ばれる、特殊な魔物が待ち構えているらしい。
名前的にこんな序盤で挑んでいいのか
「たしかレベル25だったよね。五〇階層あたりで強化されたディザスターがウジャウジャ出てきた時はさすがに死ぬかと思ったよね〜」
「な、懐かしいね……!」
ダンジョン前のコンビニで、俺とウララ、柚佳ちゃんの三人はおっちゃんの到着を待っていた。
「25なら行けそうな気がするぜ」
俺は『チャンネル登録者千人達成記念生配信』以来、二つしか上がっていないから、レベルは17。だが木原のおっちゃんは25あたりだったはずだ。
「レベル差っていうのはもちろん大事だけど、それよりも重要な要素ってなにかわかる?」
「……メンタル?」
絶対に負けないぜ、っていう気持ち的な。
「大事だけど、それも大事だからはなまるあげちゃう!」
「ありがとう、好き」
「にゃああんっ♡」
チョロい女だった。
「——んで、ウララの思う大事な要素ってのはなんだ?」
「前にも言ったかもだけど、フィジカルだよ。スペック的な」
「フィジカル?」
「そ。素のね——ぶらぉぉぉっ」
ウララは指で目を釣り上げて、オークの咆哮を真似た。
「一般的な人間レベル1と一般的なオークレベル1が殴り合いを始めました。さあ、勝つのはどっち?」
「オークだな」
「そう。レベルが同等でも最初から、種族的に備わった素質が人間より優ってるの。筋肉だったり握力だったり
「なるほど」
俺は眠たくなるのを我慢して頷いた。
「魔物と戦うにあたって人間って
なんだか話が長くなりそうだったので、俺はなんとなくウララの言いたいことを先に出した。
「同じレベルでもステータスの数値がダンチってことか?」
「うん。オーク・ディザスターはレベル25でも、通常オークの五倍から十倍は強いよ」
「五倍から十倍って……」
卍解した隊長並かよ。
「だからボス戦は、安全マージンを取るって意味でも最低二〇人以上で挑むものなんだ」
「し、しし死傷者も、よ、よく出てますから……」
「そんなボスに、俺たちだけで挑むってことか」
実際にウララは参加しないから、俺とおっちゃん、柚佳ちゃんの三人で、だ。
「ディザスターがレベル25だから、レベル30の探索士を二十人集めて挑みたいところだけど……まあ、今回は柚佳いるし」
「が、ががんばります……っ!」
「柚佳の耐久と装備があれば、一〇階層のボスなんて楽勝だよ。ソロでもいけちゃう」
「柚佳さんマジパネエっす」
「そ、そんなことは……っ」
いやマジでなんかすごいんだな、この子は。
最近、正直なところいやらしい目でしか見ていなかったけれど、俺は改めて尊敬の眼差しを彼女に向けた。
いったいレベルは幾つなのだろうか。
めちゃくちゃ気になる。
鑑定があればなあ……。
あと触りたい。
「お待たせしてすみません……! ちょっと寝坊してしまって!」
「おう、全然待ってない……ぜ……」
俺は抑えていたセクハラ衝動を殺しながら、ようやく来たおっちゃんに目を向けた。
言葉を失った。
ウララも柚佳ちゃんも同様に、呆然と固まっていた。
「おっちゃん……大丈夫、か?」
「え、あ、ハイ大丈夫ですよ!」
「疲れてるんじゃ……ないか?」
「え? そんなことありませんよ。まあ多少の疲れはないこともありませんが、ビンビンに漲ってます!」
「………」
本当に、そうだろうか。
おっちゃんの顔は不健康に痩せこけていた。
目の下に真っ黒なクマが浮かび上がり、白髪も増えた気がする。
両目は大きく見開かれ、血走りながら据わっていた。
目に見えて疲労困憊。
異常を感じない方がおかしい。
だというのに、それを感じさせない声量と明るさに、俺は冷や汗を浮かべた。
なにかに憑かれてる——そんな気がした。
「きょうは、やめないか?」
「え? なんでですか? どこか調子でも悪いんですか?」
「おっちゃん、筋肉痛はどうだ?」
「あ、ヤバいです! 寝てる間とかも筋肉が攣っちゃって攣っちゃって……でもこれがちゃんと効いてるって証ですよね! ごはんもしっかり食べてますし、最近仲良くなったトレーニーの方にオススメのサプリもらってから調子が良くてですね!」
「おっちゃん、きょうは休もうぜ」
「筋肉のためにも睡眠が大事なのはわかるのですが、どうしても眠れないものですから実は夜にもダンジョンに潜ってまして、昨日でレベル30になったんですよ! ははは、そうそう見てくださいこの新装備! きのう装備が壊れてしまったので十連まわしたんですよ、そしたらA級装備を——どうかしましたか、みなさん? 行かないなら僕、先に行きますけど」
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