第22話 防御讃歌 1/2

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 名前:百女鬼 湊

 Lv.15

 職業:淫魔

 称号:淫魔の末裔


 HP=1500/1500

 MP=680/680

 VP=100/100

 ATK=350

 DEF=349(+50)

 MAG=346

 AGI=351

 LUC=348(+100)

 成長値=4

 固有スキル:罪色欲之王アスモデウス《EX》

 職業専用スキル:性魔術《C》、淫我《B》、絶倫《C》、精強《C》

 スキル:鎧冑の如く《F》、剣術《E》、胆力《E》、痛覚耐性《F》

     千里眼《D》、身体強化《D》

 スキルP:0

 


 ログ

 

 Bランクスキルを獲得しました。報酬を受け取れます。

 スキルポイントを使用してスキル:淫我を《C》から《B》に強化しました。

 スキルポイントを使用してスキル:千里眼を《F》から《D》に強化しました。

 スキル:身体強化《D》を習得しました。

 マウリの絆ストーリーが解禁されました。

 スキル:千里眼Fを習得しました。

 以下略


 ――――――――――――――――――――



「お兄ちゃん、ちょっと見ない間にステータス変わったね〜」

 


 ウララが茶化すようにそう言ってきた。

 俺も表示させたステータス画面を眺めて、頷く。



「……昨日のアレが大きいな……」

「えへへ……っ」

「?」

「あ、あ、あれは……ギリギリな内容……でし、でした……」



 首を曲げるおっちゃん。おっちゃんにはまだ、俺のスキル『罪色欲之王アスモデウス』について話してはいない。


 だって恥ずかしいやん。自分から言えるようなものではない。



「その話はやめよう」

「な、なんの話でしょうか? ひみつの特訓的な?」

「特訓といえば特訓だね。レベル、たくさん上がったもんね……?♡」

「そんなに上がったんですか!? ど、どうやって!? 僕にも教えてください!」

「い、いや……これは俺専用というか……!」

「すごかったね……お兄ちゃん……特に、配信のあとが♡」

「……っ!?」



 ウララの濡れた唇が昨夜の記憶をフラッシュバックさせた。


 チャンネル登録者数千人記念の配信をしよう、ということで俺とウララは昨夜、生配信を行った。


 内容は適当。雑談しながらお礼言ったり世間話をして、三十分くらいで終わらせる……はずだった。



『洒落にならない女剣士:5000¥

 妹ちゃんと愛してるゲームやって』



 毎回のように俺たちの配信を見ているこの女(?)の投げ銭から、永い夜がはじまった。



『妹ちゃん、マスクしていいから顔出し希望』

『画面に野郎が一人で愛してる囁き合うゲームとか誰得だよ、って話』

『妹ちゃん妹ちゃん妹ちゃん』



 そんなこんなで、風呂上がりの濡れ髪パジャマ姿にマスクを装着したウララとベッドの上で並んで、俺たちは『愛してる』と交互に囁き合った。


 そこまではいい。

 そこまでは楽しかった……(と、兄貴が抱いていい感情ではないが)。



『洒落にならない女剣士:10000¥

 マスクの上ならキスしても規律違反にならないと思う』



 ここからが荒れた。



「ど、どうなったの、あ、あ、あのあと……っ!」

「さ……流石の柚佳にもいえないよ、あの後のことは……きゃあああ♡」



 両目を隠して体を捻らせるウララ。柚佳ちゃんは興味津々に詰め寄っていた。



「れ、レベルがあ〜……お兄ちゃんのレベルがあ、『8』も上がっちゃってえ……♡」

「し……したの?」

「……んーん♡」

「きゃあああっ!」



 女子二人は顔を真っ赤にさせて悲鳴をあげた。

 とても楽しそうな光景だったが、俺は頭を抱えた。

 木原のおっちゃんだけは、わけがわからず、困ったように苦笑していた。



「よ、よし、休憩おわり! ダンジョン行くぞ!」

「そ……うですね、そうしましょう……?」



 俺はまぶた蔓延はびこるあまったるい煙を振り払いながら、席を立った。それに木原のおっちゃんも続く。



「じゃあ柚佳、お願いね。腕は鈍ってない?」

「ん。し、心配しなくていい。ま、ま、前みたいに深くは進んでないけど、か、稼ぎに行ってるから……っ」

「オーケー。頼りにしてるよ、相棒」



 そして俺たち四人は、再びダンジョンへ潜った。


 午前の続きである六階層の途中に設置したテレポーターから移動し、回収。

 程なくしてさっそくオークと戦闘になる。



『ブラォォォォォッ!!』



 こちらの姿を見るなり突進をかましてきた一体のオーク。

 流石に慣れたもので、木原のおっちゃんも俺も冷静に得物を構える。



「ま、ま、任せて……ください」

「柚佳ちゃん、ホントにだいじょ——」

「ぁ——」



 紅の大盾を軽々と持ち上げながら、柚佳ちゃんが俺たちの前に出た。が、ちょっとした地面のへこみにつまづき、柚佳ちゃんが体勢を崩す。


 そこへ、柚佳ちゃんの三倍近くある巨体のオークが突っ込んだ。

 


「「———ッ!?」」



 あ、死んだ——。

 

 俺と木原のおっちゃんは、たぶん考えていることは同じだったはず。


 まさかつまづくなんて思ってもいなかった俺は、完全に油断していて。


 体は硬直したまま。


 指一本動かすこともできず、コンマ刻みで流れる世界のなかで、次にやってくるであろう凄惨な光景に目を瞑った。



「ちょっと柚佳ぁ」

「ご、ごめんなさい……き、きんちょ、緊張して……っ」



 閉じた瞼の向こう側で、陽気な二人の声が聞こえる。

 俺は、恐るおそる目を開けた。


 そこには、ポリゴン状となって霧散していくオークの姿と、ピンピンして顔を赤くしている柚佳ちゃんの姿があった。



「あ、え……?」

「死んだと思ったでしょ? ぷふー、お兄ちゃんかわいすぎ! 目ぇ閉じちゃって、ちょーウケるっ!」

「な、なんで……」

「単純な話だよ」



 ウララは俺のアホ面をカメラで収めながら、言った。



「防御は最大の攻撃なんだよ」



 それ、逆じゃねぇ……?

 

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