第7話 救助1/2



 階段を下り、やってきたのは迷宮二階層。


 雰囲気や見た目は一階層と同じみたいだ。ただ、



「……ちょっとマズいかもね」


「だな」



 ここから見えるだけでも、十人くらいの探索士がぶっ倒れていた。



「ある程度レベルが近ければ気絶することもないし、そもそも吹き飛ばされないから対処のしようがあるけど、初心者だったり中級者が多いランク帯だとなす術なしって感じだよ」


「見境ないってのは、魔物より凶悪じゃね?」


「高レベル帯の人たちはテレポーターを設置して目的の層まで短縮してるんだけどね。あの人だけは毎回、タイムアタックしてるんだ。そのうち死人がでるよ。もう出てるかもしれないけど。――ほら、あんな感じで」



 ウララが指差した方向。


 仰向けで倒れている探索士に一体のゴブリンが恐るおそる近づいていた。


 何やら周囲を尋常じゃないくらい警戒し、遠目からでもわかるほどに全身を震わせていた。



「逢木鬼ウユカの取りこぼしだね。あのゴブリン、相当なトラウマになってるよ」


「そんなこと言ってられないだろ!」


「あ、お兄ちゃん待って――」



 ウララを置いて俺は走った。


 ゴブリンはすぐ俺に気付いたが、動揺したそいつは、手に持ったボロ臭い斧を振り上げる。――すぐそばで倒れている冒険者に狙いを定めて。



「クソッ」



 ダメだ、間に合わない。


 ゴブリンとの距離はあと少しなのに。



「――っ」



 あと一歩、届かない――



「ギィッ!!」



 振り下ろされた斧。


 ギロチンのように重力に従って落ちる刃は、瞬間――重力に逆らった。



「!?」



 弾かれたかのように斧が真上に跳ねる。いや実際、何かに弾かれていた。ソレは背後から俺の真横を突き抜けて壁を跳弾し、地面に転がっていた石ころをも跳弾させて絶妙な角度で斧を弾いたのだ。


 人間技じゃない。


 しかし、そのおかげで俺の拳がゴブリンに届いた。



「――ッんの野郎ぉッ!!」


「ブギぁッ」



 振り抜いた左の拳がゴブリンの顔面に突き刺さり、壁に潰れる。すぐさまポリゴン状となってゴブリンは消えた。



「間に合ったね、お兄ちゃん! さすが、かっこいいっ! だいすき!」


「お、おう……」



 にこにこと駆け寄ってくるウララ。


 間違いなくMVPはおまえだよ。


 あとで跳弾のやり方教えてもらおっと。



「やっぱりレベル上がってるから、ワンパンだったねっ!」


「あんな苦戦してたのにな。四つちがうだけでこうも変わるのか?」


「んー、お兄ちゃんはレベルの差というよりステータスの差かな。そのレベルで伸び率異常だもん。成長値2のくせに」


「ほーん」


「やっぱり固有スキルは強力だよねえ。お兄ちゃん、ほんっとに運がいいよ。スキルオーブが出現しても得られるスキルはランダムだから、普通に価値のないスキルが出てくることが多いんだよ」


「俺、昔からここぞというときには運がいいんだよ。持ってるほうっていうか」


「そんなことよりもさ、このひと放置でいいの?」


「そうだった」



 俺は襲われていた探索士の肩を揺すった。



「おい、おっちゃん。大丈夫か? 生きてるか?」


「う、うぅ……」



 五十代くらいの頼りなさそうなおっちゃん。

 目覚めるのに少し時間がかかりそうだった。


 

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